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第10話 誘導

「亜央っ……! お前は絶対に許さない……!」

 怒りを(あらわ)にする一夜から、放電するように光が弾けた。

 一夜の手が亜央に向く。


「一夜っ……!」

 俺の呼び声と、一夜が亜央を攻撃したのは同時だった。

 床に仰向けに倒れる亜央に、一夜が押さえ込むように上に乗る。

「貴桐さん!」

 一夜の有り余る力に、これでは殺しかねないと、咲耶が不安を伝えた。

「咲耶、防御しろ」

「はい」

 一夜の力が暴走すれば、塔は崩れるだろう。

 そんな事になれば、階下のペイシェントまで巻き込む事になる。

 今の一夜には、亜央しか見えていない。

「一夜っ……!」

 俺は、一夜を止めようと肩を掴む。

 その瞬間、バチッと音を立てて放電し、俺の手を弾いた。

「チッ……」

「おい……貴桐……これ…… 一夜は……」

 侯和の表情が硬くなる。

「マズイ……重なった…… 一夜が自我を見失う」

「重なったって……」

「このまま放っておけば……奴を殺すぞ」

「貴桐……」

 侯和は一夜に目線を向けると、亜央を睨む一夜へと手を伸ばした。

「一夜……! 一夜……!」

「触れるなっ! 侯和っ! お前じゃ、まともに食らって吹き飛ばされるぞ 」

「じゃあ、どうすればいいんだよ……!」

 目の前で自分の友人が、生活を共にして来た一夜に命を奪われそうになっている。

 確かに亜央のやっている事は許し難い行為だ。

 だからといって見過ごす訳にはいかないだろう。


「一夜にそんな力を使わせたくない。そう使ったらその力が浸透する。……止める」


 俺が一夜へと動こうとするより先に、圭が一夜の肩に手を置いた。

「一夜。ダメだよ」

 一夜の肩に置かれた圭の手は、弾かれる事はなかった。

 圭の声に一夜がゆっくりと振り向く。

 ……制御……いや……どっちだ。


「ちゃんと見て、一夜」

 圭の指が、一夜の視線を動かす。

 一夜の目線が俺たちに向いた事に、俺は溜息をついた。

 はは……こっちかよ。やっぱり、と言いたいところだが。

「……貴桐さん……」

 咲耶は、困った声で俺を呼んだ。

「心配するな」

「では……そのように動きます」

「ああ」

 一夜の目は虚ろにも、意識が定まらないようだった。

 圭がクスリと笑みを漏らすと、立ち上がった一夜の手が俺たちに向く。

 圭の様子が変わった事に、侯和が亜央を睨んだ。

「亜央……お前が……圭を分離したのか……」

 亜央は、ゆっくりと体を起こすと、侯和に答えた。


「見ての通りだ。再構築された思考は、それが本物だと信じて疑わない。例え幻覚だろうが、そこに見たものは記憶として刻みつけられる。同じ『記憶』で結んだ器が、同じ姿を保っていたら、それだって『本物』だろう? 何も(たが)う事はない。どちらを選ぶかは、当人次第。選んだものが当人にとっての本物って事だ。それが上手く重なった結果だよ」


 これがバイロケーションでも、その意識は亜央の手で繋がれている。

 干渉させる事も、自由自在って訳か。

「亜央…… 一夜と圭をどうする気だ……?」

「侯和。お前だって信じていたんだろ? 草や木、もちろん人もだが、それぞれに宿っている気……それを動かす事は可能だと。それには必要な『部品』も『材料』も多くてね。その事については、侯和……お前はよく知っているんじゃなかったのか。その姿を保つ事に、力を貸したお前なら、な」

「……知っていたのか」

「まあな。お陰で『精霊』も『継承者』も手に入ったよ。この二人の繋がりはとても強くてね……隠した心臓を見つけたはいいが、どう取り戻すか苦労したよ。でもまあ、俺の計算通りだった」


 計算通り、ねえ。

 それはどうかな。


 俺は、鼻で笑うと亜央に言う。

「……ふん。大した自信だな。その余裕な態度が長く続くといいが?」

「おい……貴桐……お前、まさか一夜に手を掛けるつもりか」

 侯和の不安を他所に、咲耶は穏やかな笑みを見せて侯和に言った。


「大丈夫です、侯和さん。()()で終わりますから」

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