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第10話 覚悟

 宿木に光が見えたのは、差綺が張った網だと分かった。

 ……差綺……お前……。

 差綺が何の為にそんな事をしているのか、答えは一つしかない。

 宿木に宿る……精霊。接触する気か。いや……あいつの場合、干渉と言った方が正しいか。

「……貴桐さん」

 心配そうな咲耶の声は聞こえてはいたが、俺は目を伏せると窓から離れた。

「……咲耶……その少年…… 一夜を頼む」

「分かりました。ですが……貴桐さん……」

 咲耶も差綺が何を思って網を張っているか、気づいたのだろう。

「……心配……するな」

 そう呟いた俺は、ちらりと一夜に目線を向けた。

 まるでこいつと同じだな……俺も。

 直ぐに口をつく言葉は、口癖にでもなったかのように変わらない。


 ……心配するな。


 その言葉が、俺に絡みついて離れなくなった、呪いのようだ。

 それが俺に、必要以上の力を望ませる。今以上、それ以上と。例え、そこに何かの代償があろうとも。

 手に入れたい、手に入れなくてはと騒ぎ出す。

 それでも……。


 俺は、前の主が残した書物を保管している部屋へと向かった。

 数え切れない程の書物の中で、探すべきものは決まっていた。

 迷わず手にした一冊の書物を手に開く。

 かなり古い書物だ。

 言い伝わってきたものがここに書かれている。

 草や木、そして人に宿る『気』……その正体は精霊であって。

 その力を得る方法だ。

 書物を開いた瞬間に目に飛び込んだのは、前の主が書き入れた文字だ。

「……望む事……全て……思いのままに」

 俺は、書いてあった文字を指でなぞりながら、その言葉を呟いた。

 呪術師を頼って来た者たちから、いつしかよく聞くようになった言葉だ。この言葉の通りに、望む事が全て思いのままとなるのなら、誰もがその力を欲する事だろう。

 確かに前の主は、精霊の力を使う事が出来た。

 その言葉が広がったのも、精霊の力を得たからだと証明出来る……か。

 それならばここに書かれている事は、ただの伝説のみならず、手に入れられるものだと確証をもって言える。

 たが、一体……どうやって……。

 先を読み進めていく俺の口から、笑いが漏れる。それは苦笑だった。

「……自身の体にあるもので契約、ね……」

 有りがちといえば、有りがちだな。

 呪術といってもその種類は様々だ。

 大半は呪文で効力を得るが、何かを道具として使う事もある。その中でも類感呪術、感染呪術といった、相手に危害を加える事の出来る厭呪(えんじゅ)は、呪いを掛ける相手の持っているものを必要とする。つまりそれが媒体となり、掛けた呪いが相手に届く。

 効力を望むなら、その相手の体にあるものを使う。髪の毛や血などは、特に強く影響を与える事が出来る。

 ……これもやはり、思いのままって事か。


「はは……これじゃあまるで、自分に呪いを掛けるのと一緒だな……」

 更に読み進めていくと、精霊の名と性質が書かれていた。

 ……守護と……攻撃……。

「攻撃……綺流(きりゅう)……」

 俺は、ふっと笑みを浮かべると、書物を閉じた。

 勿論、その先にも続きはあった。だが、俺にはもう読むまでもなかった。

「まあ……それも……」

 部屋を出ようと歩を進めながら、一人呟いた。


「覚悟の上だ」


 握りしめる手には、まだ何も掴んではいない。

 だが、力強くも握る手と、前を見据える目は、必ず掴むと自信を持っていた。

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