第4話 束縛
恨めしそうに言葉をぶつけたペイシェント。
一夜たち呪術医が彼らの異変に気づいていた。
言葉を吐きながらも、バタバタと倒れたペイシェント全ての脈がないという。
……来贅。
俺たちの足止めのつもりか、こんな使い方までしやがって……。
「……やめろ」
一夜……。
一夜は、強張った表情で頭を抱える。
こんな状態にされたペイシェントを目の前に、来贅が頭に浮かんだのだろう。
「一夜……!」
一夜を心配した圭が、一夜の肩を掴んだ。
それでも一夜は頭を抱えたままで、不快な思いを吐き出すように叫ぶ。
「やめろーっ……!」
一夜が叫び声をあげた瞬間、強い風が吹き抜けた。
「おい! 一夜っ!」
俺と圭は、一夜を落ち着かせようと肩を強く掴んだ。
「あ……」
我に返ったように、一夜は冷静さを取り戻す。
溢れ出た力が風を呼び、長く白い髪を揺らした事で、ペイシェントが反応を見せた。
「ああ……蒼い瞳に白い髪……なんだ……『先生』じゃないですか。『先生』なら……助けられるでしょう……? ねえ……『先生』」
そう声をあげたペイシェントに続き、また別のペイシェントが圭に声を向ける。
「『先生』……助けられるでしょう……? ねえ……『ケイ先生』」
「早く助けて下さいよ……上階の『先生方』でしょう……?」
あちこちから『先生』と繰り返される声が、不気味に響いた。
「『先生』に命を預けるしか……方法はないんですから……」
「預かった命……ちゃんと返して下さいよ」
夜明けの空に似つかわしくない、恨めしい声が響く。
「返して下さいよ……『先生』」
そんなペイシェントの様子に、一夜と圭が顔を見合わせると、二人同時に頷いた。
そして一夜は、宣言するようにも塔に行くと答えた。
一夜は、この状態のペイシェントをどうにか出来る術はないかと話を始めた。
「同じだよ、一夜。もう一回、聞きたい? その答え」
差綺はそう言って、クスリと笑みを漏らした。
「……いや」
「同じって……なんですか……?」
その言葉に紗良が気になったようだ。一夜が紗良に答える。
「最終的に心臓の鼓動が止まれば、死が決まる……彼らの心臓は、来贅が持っています。それを無事に取り返したとしても……難しいかもしれません」
「心臓を持っているって……取り返したらなんとか出来ないのでしょうか? 治療は再開出来ますよね? 取り返す方法があればですが……」
「心臓を取り返し、無事に戻せたとしても……病を患っている彼らは、心臓が戻った瞬間に、病の悪化速度が急激に速くなるんです」
侯和の舌打ちが聞こえた。
侯和にしては珍しいな。
俺は、地に屈んだままの侯和の側へと行った。
「どうした、侯和」
「……あの塔に一体、どれだけの数のペイシェントがいる? 一時的に代わりになるものを模して作っても、数が多過ぎて間に合わない。ここにいる人数だけでも手が一杯だ。全員となると……無理がある。間に合う訳がない」
侯和は、込み上げる悔しさを地にぶつけようとする。
「侯和っ」
俺は、侯和の手首を掴んで止めた。
「やる前に怪我したら、一人も助けられねえだろーが」
「……ああ……そうだな……」
侯和は、苛立ちを抑えようと、深呼吸を繰り返していた。
「それなら……」
行き詰まったようだったが、その空気感を裂くように流れた声は紗良の声だった。
「一時的に全ての機能をストップすれば、時間は作れますよね? 私がその時間を作ります」