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第2話 亜種

 その後に話す、圭と紗良の言葉で、圭の父親が塔に入った事があると分かった。

 塔から出た事で、その身を追われる事になったのだろう。


 圭の父親が塔から持ち出したという幻覚剤。作った訳ではないが、その知識は持っていたという。

 まあ……知らなければ持ち出す事も出来なかっただろうが。

 圭の父親が塔に入った事があるなら、当然、その知識も塔の中って訳だ。


 それにしても……。

 俺は、宿木へと目を向けた。

 毎回、派手にやってくれるよな。

 だが、奴にはやはり不足しているものがある。


「差綺」

 俺は、差綺に声を掛けると、倒れた宿木の元へと向かった。

 地に落ちている宿木の実。

 俺と差綺は、屈むと実を前に地に手をついた。

 地に張り巡らされる網が実に絡み付くと、軽い音を立てて実が割れた。

 どろりとした液体が溢れ出すと、種が飛び出す。

 飛び出した種は新たな樹木へと張り付き、根を下ろし始める。

 俺の側に侯和が来た。

 俺は、宿木が伸びていく様を見ながら、口を開く。


「宿木は、必要なものを得る為に、宿主に依存する」


 侯和や丹敷、一夜が驚きながら、その様を見つめる中、差綺が言う。

「実を成し、種を作るその存在は、その存在を絶やさないという事。存在をただ続けるだけなら、どれでもいいんだよ。宿る事の出来るものがあるなら、どれでもね。だけど……」

「『ハズレ』なんだろ……差綺」

 差綺の言葉に答えたのは一夜だった。

 来贅に言われた言葉を思い返す一夜だったが、その表情に翳りはなかった。

 差綺が一夜に、そう言われた事をどう思うのかと尋ねると、一夜は否定すると言葉にした。

 俺は、ふっと笑みを漏らすと、宿木へと手を向けた。

 降り注ぐ月明かりが俺の手元に集まると、光の粒となって俺の手から宿木へと注がれる。

 俺は、宿木へと光の雫を降り注ぎながら、こう口にした。


「宿主に力があれば、宿木は宿主を選ぶ。その差は大きい」


 俺の言葉に一夜は、笑みを返して頷いた。

 ただ、俺の隣に立った侯和の表情は、翳りを見せていた。

 侯和は、宿木をじっと見つめたまま、静かに呟いた。

「サブスピシズ……か、貴桐」

 ……まったく。面倒な性格してんな。

 細かいところまでよく見ている証拠だが。

「分かっているなら、なんだ? 侯和。言いたい事があるなら、はっきり言えばいい」

「この木はオークだろ……お前たちが倒した宿木とは別物だ。だから……葉の形も実の色も違う」

 俺に目線を向ける侯和に、俺はクスリと笑った。

「……それで?」

 侯和の言いたい事は分かっているが、敢えて侯和に答えさせようと促した。

「……なんでいつも黙ってんだよ、貴桐」

「お前が訊かないからだろ。一人で抱えて、一人で答えを出したがる。お前がいつも思っている事は一つだけだ。それを大事に抱えて、悲観的になるのは自分が出来る唯一の償いか?」

「……何の事だ」

「お前だけじゃないんだよ、奪われたって思ってんのは」

「貴桐……」

 今、目の前にある宿木を見て、そんな言葉を言い出したのは、侯和が常に頭から離れない奴の存在に関係があるからだろう。

 塔の上階にいる呪術医の事だ。

 出来る事なら自分と同じ立ち位置であって欲しい……だが、そいつの考え方は侯和とは違う。

 何が正しいという事も、そこに否定出来るものは今はないのだろう。

 そもそも、信じて疑わないものに否定は通用しない。

 それが『基準』だ。その基準を変えなければ、間違っているなどと認める訳がない。

 その基準が信念なのだから、相手にしてみれば侯和を否定するのは、はっきりしている事だろう。

 それでも……助けたいと思っているんだよな……。


 俺たちがこのまま進めば、侯和……お前が助けたいと思っている奴も、倒さなければならないのだから……。

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