表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/168

第1話 手段

 皆が無事である事に、一夜は安心した顔を見せた。

「あの……」

 圭が差綺と話をする中、申し訳なさそうにも紗良の声が入る。

 その声に目線を向ける圭は、驚いていた。

「紗良……どうしてここに……?」

「ここに来れば……会えるんじゃないかと思っていたので。父が……伝えようとしていた事があったんです。圭さんに」

「間木先生が俺に?」

「それを伝える事が出来たならって……圭さんが塔に行く事もなかったんじゃないかと悔いていました。それは今もです」

「紗良……間木先生が悔やむ事なんてないよ……」

「ですが……圭さんは……知っていたんじゃないんですか?」

 紗良の言葉に圭の視線が宙を仰ぐ。

 その目線の動きに、俺と咲耶の目線が合った。

 圭は、重い口を開くように答えた。


「知ってたよ……幻覚剤、だろ?」


 診察室の薬棚にあった幻覚剤の事は、一夜も知った事だ。

 圭が答えたその言葉に、一夜の表情が強張った。

「圭……」

 まさかという思いが浮かんだ事だろう。

 だが、圭はこう答えた。


「あれは……父さんが塔から手に入れたものだよ」

「やはり……ご存知でしたか」

 紗良がそう答えた。

「関わるなって……言いたかったんだろ、間木先生は。父さんが塔に入るのを拒否したのは、それだけじゃない事は、間木先生だって知っているだろ……」

「勿論、父にしても柯上先生とは同じ思いでしたから。でも……触れてはいけないところに、向かってしまったのではないかと……」

「黙って見ている訳にはいかなかったんだ」

「……圭さん……それでも、リスクが大き過ぎます。あれは……」

「そうだよ。『材料』は身近なところにあるんだ。薬剤を独自で調合するその知識は、触れてはいけない知識の『材料』を掴む。父さんは、それを知っていた。だから俺は……」

 圭の視線が侯和に向く。

『材料』は身近なところにある……確かにその通りだ。

 侯和は、林の中でそれを見ていたのだから。


「圭……そうだったんだ……言ってくれればよかったのに……」

「ごめん…… 一夜。侯和さん」

 侯和は、長い息をつく。

 そして俺に言った言葉を口にした。

「幻覚剤……か……表現的な呼び名としては、サイケデリックスにエンセオジェン……肯定的であり、神秘的であるという。幻覚でもそれは体験であり、そんな大量の体験情報が一気に流れ込む混沌は、思考の再構築を始める」

 侯和は、再度溜息をつくと、言葉を続けた。

「そこにないものを追い求めた結果だろう……もし……全ての情報が一つの知識となって構築され、形のないものが形として使う事が出来るなら、その薬剤は……」

 侯和の言葉の先を圭が言った。


「その思考は統一され、同じ知識体系を作る」


 不快を示す俺は、不服そうにこう答えた。


「類感呪術、感染呪術……その先にあるのは共感だ。それを具現化したものの役割として、そこに行き着いたといったとしても、俺は否定するぞ」

「貴桐さん、俺だってそれは同感ですよ」

「当たり前だ、圭。じゃあ、答えて貰おうか。人体に特化する呪術に何が使われているか……お前はそれを知ったはずだろう?」

「あれは状態を作る為の誘導に過ぎない。貴桐さん……あなた方呪術師は、そこにはないものを感じ取れる力も得られる力も、元々組み込まれている……そう考えたんですよ」

「組み込まれてる……ねえ……?」

 俺は、呆れた声を漏らし、先を促す。

「それで?」

「目に見えない気の動き……それを理解出来ない者にとっての想像は、当然、その力を得る方法も段階も構築出来ないんですよ。但し……」


 流石に限界って訳だな……。


「構築出来るのは『手段』それが答えです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ