第32話 相似
宿木は、寄生した樹木から全てを奪う訳でも、宿木自体で生きられない訳でもない。
『宿主』から得る養分は、宿木には作る事の出来ないものだ。
宿木にないものを宿主から補う事で、生育している。
それは、宿と精霊も同じようなものだ。
そもそも宿木といっても一種だけではない。
生育する場所は違っていても、生育するために必要とするものが同じならば、その見た目は相似する……収束進化だ。
それが存在するにあたって、その姿が最も適しているから似る……。
……来贅。
奴が生き続けなければならない理由。そして必要としているもの。
探しても探しても、それは容易に見つけられるものではない。
そう……『奇跡』でも起こらなければ。
場所が違っていても、必要とするものが同じならば……。
同じ姿がそこに存在する。
そして、その中身も同じでならなければ意味がない。
奴は、その可能性を高められるかと確かめている。
だから可能性のある者を……殺さない。
追い詰めるだけ追い詰めて、その者が起こす『奇跡』を手にするつもりなのだろう。
爆発音が響き渡り、風圧に押される。
割れた地面の塊が飛ぶ。
巻き上がった土が、煙のように立ち上り、辺りを汚していく。
吹き飛ばされ、地に倒れた一夜。
そこに現れた姿が、一夜の頭を踏みつけた。
「半分……ではな。ふん……これも『ハズレ』か。残念だな…… 一夜」
……圭。
一夜を思えば、こんなにも残酷な事はないだろう。
取り戻したいと願い続けたその姿が、全くの別人の意識で敵対する態度を見せるのだから。
だが……それで終わりじゃない。諦めるなよ。
その為の力も、代償も俺が賄う。
倒れた一夜が動きを見せない。
受けた衝撃に、心も体も追いつけないのだろう。
倒れた後、直ぐに俺たちの姿を探していたが、俺たちは衝撃を避ける為に離れた位置で地に伏せていた。
おそらく、俺たちが倒されたと思ってしまった事だろう。
だからこそ……分かるな、一夜。
お前しかいないんだ。
暫く動きを見せなかった一夜の手が動いた。
頭を踏みつける圭の足を掴むと、バランスを崩した圭が仰向けに倒れた。
一夜の指が円を描く。その円が網を張るように糸を伸ばすと、圭を縛りつけた。
一夜は、圭の上に覆い被さるように乗ったが、そこでまた動きが止まった。
……まずいな。意識を失うか。
一夜の動きが止まったと同時に、網が消えそうになった。
俺は、地に円を描く。
その円に注ぐのは、俺の血だ。
スカルペルを腕に刺し、真っ赤に染まっていく手を地につける。
俺が描いた円から、一夜の描いた円に血が伸びていくと、消えそうになった網がはっきりと浮かび、圭を縛り付ける。
「起きろ……! 目を開けろ……! 一夜っ!」
俺の叫び声に一夜が俺を振り向いた。
「……貴桐さん……」
俺の腕から手に伝って流れ落ちる血。それを見た一夜が驚いた顔を見せると、俺へと向かおうとする。
「動くな……! 一夜っ……!」
「あ……」
俺の声に、一夜は今の状況を把握する。
一夜の手が、圭の胸元に伸びた。
地に描かれた円は光を放って。一夜の目から落ちる雫を光らせる。
圭の胸元に置いた手に力を込める一夜の手が、圭の中に沈んでいく。狙うのは、その心臓だ。
一夜は、溢れる雫を手元に落とし、声を微かに響かせた。
「ごめん……圭……」




