表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/168

第32話 相似

 宿木は、寄生した樹木から全てを奪う訳でも、宿木自体で生きられない訳でもない。


宿主(やどりぬし)』から得る養分は、宿木には作る事の出来ないものだ。

 宿木にないものを宿主から補う事で、生育している。

 それは、宿と精霊も同じようなものだ。


 そもそも宿木といっても一種だけではない。

 生育する場所は違っていても、生育するために必要とするものが同じならば、その見た目は相似する……収束進化だ。

 それが存在するにあたって、その姿が最も適しているから似る……。


 ……来贅。

 奴が生き続けなければならない理由。そして必要としているもの。

 探しても探しても、それは容易に見つけられるものではない。

 そう……『奇跡』でも起こらなければ。

 場所が違っていても、必要とするものが同じならば……。


 同じ姿がそこに存在する。


 そして、その中身も同じでならなければ意味がない。

 奴は、その可能性を高められるかと確かめている。

 だから可能性のある者を……殺さない。

 追い詰めるだけ追い詰めて、その者が起こす『奇跡』を手にするつもりなのだろう。



 爆発音が響き渡り、風圧に押される。

 割れた地面の塊が飛ぶ。

 巻き上がった土が、煙のように立ち上り、辺りを汚していく。

 吹き飛ばされ、地に倒れた一夜。

 そこに現れた姿が、一夜の頭を踏みつけた。


「半分……ではな。ふん……これも『ハズレ』か。残念だな…… 一夜」


 ……圭。

 一夜を思えば、こんなにも残酷な事はないだろう。

 取り戻したいと願い続けたその姿が、全くの別人の意識で敵対する態度を見せるのだから。

 だが……それで終わりじゃない。諦めるなよ。

 その為の力も、代償も俺が賄う。


 倒れた一夜が動きを見せない。

 受けた衝撃に、心も体も追いつけないのだろう。

 倒れた後、直ぐに俺たちの姿を探していたが、俺たちは衝撃を避ける為に離れた位置で地に伏せていた。

 おそらく、俺たちが倒されたと思ってしまった事だろう。

 だからこそ……分かるな、一夜。


 お前しかいないんだ。


 暫く動きを見せなかった一夜の手が動いた。

 頭を踏みつける圭の足を掴むと、バランスを崩した圭が仰向けに倒れた。

 一夜の指が円を描く。その円が網を張るように糸を伸ばすと、圭を縛りつけた。

 一夜は、圭の上に覆い被さるように乗ったが、そこでまた動きが止まった。

 ……まずいな。意識を失うか。

 一夜の動きが止まったと同時に、網が消えそうになった。

 俺は、地に円を描く。

 その円に注ぐのは、俺の血だ。

 スカルペルを腕に刺し、真っ赤に染まっていく手を地につける。

 俺が描いた円から、一夜の描いた円に血が伸びていくと、消えそうになった網がはっきりと浮かび、圭を縛り付ける。


「起きろ……! 目を開けろ……! 一夜っ!」


 俺の叫び声に一夜が俺を振り向いた。

「……貴桐さん……」

 俺の腕から手に伝って流れ落ちる血。それを見た一夜が驚いた顔を見せると、俺へと向かおうとする。

「動くな……! 一夜っ……!」

「あ……」

 俺の声に、一夜は今の状況を把握する。

 一夜の手が、圭の胸元に伸びた。


 地に描かれた円は光を放って。一夜の目から落ちる雫を光らせる。

 圭の胸元に置いた手に力を込める一夜の手が、圭の中に沈んでいく。狙うのは、その心臓だ。

 一夜は、溢れる雫を手元に落とし、声を微かに響かせた。


「ごめん……圭……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ