森の主
『未来が見える……』
そんな神秘は、誰もが皆、覗いてみたいものだろう。
もしも見えたその先に何か良からぬ事が起きるなら、回避出来る術を用いる事も可能となるのだから……。
いつからだったのだろう。
夜空に浮かぶ月も、星も、人というその存在に干渉し、運命さえも揺るがすなどと耳にするようになったのは。
それでも……。
俺は、夜空を掴むように手を伸ばした。
そして直ぐに苦笑を漏らし、手を下ろした。
「……遠いな」
すうっと風が体に纏うように流れていった。
「貴桐さん」
俺を呼ぶ声に、ゆっくりと振り向いた。
月明かりに照らされる明るい茶色の長い髪は、一本に束ねられている。
「どうした、咲耶」
「『主様』がお呼びです。後継者についてのお話があると」
「……その話か……聞きたくないな」
「ですが……」
「分かっているさ……」
俺は、溜息をつくと歩を進め始めた。後に咲耶がついてくる。
通り抜けていく風が、木々を揺らして音を立てた。
その音に耳を傾けながら、目を閉じる。
この森で一番、大きな木。
その木の枝には、寄生するように根を下ろした木が生息している。
『宿木』だ。
神聖視されるその木には、神秘の力があるという。
俺は、目を開けて自分の手を見つめた。
淡い光が掌で踊る。
俺は行嘉貴桐。二十歳。
呪術師だ。