scene 9 美少年に恋したことありますか?
僕は歩幅を狭めてゆっくり歩いていた。
小柄な春日くんに合わせるためだ。妹と歩くときはこんな感じだから慣れている。
廊下には気まずい沈黙が下りていた。
「ごめん! ほんとうにごめんな!」
僕は彼を美少女と間違えてしまったのだ。
「別にいいよ。慣れてるし」
「あんまり可愛いんで驚いちゃったんだ」
僕はこういうセリフも吐けるのだった。
「可愛いとか言うな」
「ところでさ……」
ごくん、と僕は喉を鳴らした。
「お姉さんか妹さんいますか?」
「それもよく言われる。キミ、ほんとうに反省してる?」
「僕、美人が好き」
「嫌いな人はいないでしょ。ちなみにボクは一人っ子」
「お母さんは何歳ですか」
「人妻だよ、当然だけど」
春日くんは僕を見上げて睨んできた。
「ほんと、そろそろぶっとばすよ? ボクは空手初段なんだ」
桜色の唇でそう告げられる。
そのとき太腿を蹴られた。
「どこ見てんの? そんなんだから歩くセクハラとか言われるんだよ!」
「うん……。僕、自分があんまりエロすぎるんで、たまに死にたくなるんだ……」
もう一発、蹴りが太腿にヒットした。
「死にたくなるなんて、気軽に言うな!」
「ご、ごめんなさい」
春日くんの本気の怒声に、僕はたじろいでしまった。
ふん、と春日くんは大股で歩き去って行ってしまう。
僕は彼の背中を見送りながら、なんだか胸のなかに淡い想いが残っているのを感じていた。
僕、そっちのケもあるのかなあ。
ドラゴンは「それもまたよし」と答えたような答えなかったような感じだった。