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scene 30 学校の城塞化

 それからのことは、後で知ったことだ。


 僕は眠くて眠くて記憶も飛び飛びだった。


 特別よ、と深田奈津子先生のハスキーな声を聞いたような気がする。

 なにが特別って、誰もいない保健室で、ベッドで寝られることだ。

 なんで保健室に誰もいなかったのかと言えば、生徒たちが殺到するのを見越して、鍵を閉めていたからだ。

 ひどい話だけど、怪我をした生徒全員を受け入れることはとうてい無理なのだから、事態が落ち着くまで立ち入り禁止にしたのもわからなくもない。


 僕が眠ってる間に、事態は急速に進展したらしい。


 カディアさんは、すぐに引き返してきたということだった。

 父親のダルカン公爵と母親のイラザ夫人が一緒だった。

 ふたりは、蒼麻貴子先生と会談して、王都行きの承諾を得た。


 驚くべきことに、学校を城塞に改築することになったという。ただの学校だ。いくらなんでも無謀だろう。


 そこで現れたのが、逞しい上半身に短足の小人さんたちだった。

 ドワーフだ。間違いない。


 なぜなら彼らの手業は魔法のようだったというのだ。そんな「魔法のような」手業、他の種族では真似られないだろう。

 ドワーフが魔法を使えるかどうかは作品によるが、彼らが技術力に長けた種族だというのは共通している。


 魔法と言えば、ドワーフたちは魔法で移動してきたという。ヴェルラキスさんたちが使っていた光の柱とは違い、移動魔法陣というものがあるらしい。移動魔法陣の有利な点は、一度に大勢を移動させることができることだという。そのかわり、出発点と移動先の両方に魔法陣が必要で、それをつくるのは同一人物でなければならない。そのうえ、魔法陣の効力は一回きりだという。


 ダルカン公爵は魔術師を連れてきていて、校庭に巨大な魔法陣をつくらせた。独りでつくるには時間がかかり過ぎるので、魔術師は弟子たちに手伝わせた。


 完成した移動魔法陣からは、ドワーフたち、そのほか建築に関わる者、警備をするための兵士たちが現れた。


 建築作業は何も学校を城塞にするばかりではない。

 学校の四隅に物見やぐらを建造し、その付け根には兵士たちが寝起きする部屋を造った。

 生徒たちのためには、校庭の横に即席の学生寮のようなものをふたつ造り、それぞれ男子寮と女子寮にした。


 城館になった校舎には、授業のための教室は残ったが、そのうちのいくつかは教職員の部屋やゲストルームに改築された。


 すべての部屋にはバス、トイレがついている。トイレは水洗。え。水はどうしたって? 水魔法の応用だそうだ。


 過去の召喚されし者が、現代文明の便利で清潔なところを取り入れた成果だという。ありがとう、先輩!

 ありがとう先輩、といえば、紙もそうだ。前近代において紙が貴重品だったことは有名だけど、ここにはトイレットペーパーもティッシュもあるのだ。

 本もあるらしい。

 ないのは、インターネットとコンビニくらいだそうだ。


 蒼麻貴子先生は、学校が居住空間兼城塞になり、生徒、教職員の生活と安全が保障されるのを条件に、王都行きを承諾したという話だった。


 ダルカン公爵の方も、国境近辺にゴブリンの巣窟になりかねない遺棄された建築物があるよりも、いっそ城塞があった方がいいという判断があったのかもしれない。


 そんなこんなで、僕が目覚めると、学校は様変わりしていた。

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