scene 26 剣士とグリフィン
巨大な鳥は、第一印象は猛禽類のそれだった。
白頭鷲だ。
だが違う。
なぜなら下半身が逞しい野獣のそれだったからだ。
まるでライオンのようだった。
僕は知っていた。
その生物が何であるかを。
──グリフィンだ。
モンスターの類だが、場合によっては騎乗生物になる。
その場合、悪の手先よりも、味方側の騎乗生物であることが多い。
どっちだ?
悪の手先か?
それとも味方か?
学校中の生徒たちが、いわば『虐殺』されている間、上空で静観していたのだ。
単純な味方というわけではないだろう。
敵であれば?
疲労困憊で精神的にも参った状態なのだ。
たやすく僕たちをやっつけることが可能だろう。
絶望しかなかった。
僕のほかの人たちも同様だったろう。
もう死ぬ。
これはもう死ぬね。
すべては無駄だったということだ。
三頭のグリフィンからはそれぞれ一人ずつ降りてきた。
三人とも剣を佩いている。
赤い服だ。シルエットは乗馬服を思わせた。
赤い服のうえに胸を覆う鎧と肩を守る鎧を着けている。
フルフェイスの兜をつけているので、どんな顔のやつかまではわからない。
三人が僕たちに近づいて来た。
最初に、絶望感から立ち直ったのは、やはり藤堂先輩だ。
権田先生の横に立った。
そのほかの先輩たちも、ひとりひとり立ち直り、権田先生を中心とした横隊を作っていく。
「くそっ」
と言って、よろよろと横隊に加わったのは、テッペイ。
残るのは僕だけ。
半年にも及ぶ引きこもり生活。
それに寝不足。
腕や脚だって斬られている。
きっと血が足りてない。
もーいーでしょう?
もうダメ。
などと思いつつ、僕の足は勝手に横隊に向かった。
敵はあと三人だ。たった三人。
敵が服を着ている以上、ジン先輩ほど頼れる人はいない。
タカ先輩は日本刀を持っている。
テッペイは木刀を、それ以外の者は槍を持っている。
ホブゴブリンを全滅させたのだ。
やってやれないことはない。
勝てる。そのはずだ。
やっかいなのは、3頭のグリフィンだ。
はッと思い出した。
「敵は姿を消します! 剣を振るうときに現れます!」
しかし三人は姿を消さないまま、二メートルくらい手前で止まった。
「貴公がこの城の城主だろうか?」
先頭が権田先生の前に立ち聞いてきた。
権田先生は首を振った。
「しかし責任者の一人です。あなた方が味方だと証明してください。そうでなければ協力しません」
「うむ。ならば、こうしよう」
と言って、先頭の赤服が、権田先生に剣を渡した。
残りの赤服二人が息を呑む気配があったが、先頭の赤服にうながされると、同じことをした。
権田先生は三人に軽く頭を下げると、
「案内します」
と言って、校舎に向かった。
「そこの者たちとも話がしたい」
赤服リーダーが僕たちを見た。
「彼らは生徒です。これ以上、大人の話に巻き込むわけにはいきません。怪我をしていますし、疲れも限界です」
「うむ。では、『隊長』と『剣士』、それに『囮役』の三人だけ連れて行く」
権田先生がイラッとする気配があったが、その前に藤堂先輩が割って入った。
「先生、俺はかまいませんよ。むしろ、情報を少しでも知っていたい。もちろん、他の生徒たちに秘密にする事柄は絶対に話しません。そうだろ、タカ! ショータ!」
僕?!
僕なの?!
やーめーてー……
「すみません、僕、もう限界……」
そのときだった。
赤服リーダーがヘルメットをはずしたのは。
赤い髪の美人さんがそこにいた。
残りの二人もヘルメットをはずすと、なかからは、やはり美人さんが。
「そうか? では仕方な」
「仕方ありません……行きましょう」




