四話 ルミちゃんの七歳児としての楽しい遊び方
一つ、二つ、三つ。
私は標的を数えた後、それはもう命を刈り取られた悲鳴の音へと変わる————
————血がポタポタとナイフから滴り、齧りかけの白い花に、その雫は落ちて赤く染まった。
振り向くと狙った通り、首元が切り裂かれた兎達が三匹転がっている。
これは私の力を利用した"瞬歩"。単なる武術ならば、相手を間合いに入れる為の歩法だが、脚部に力を入れることによって、それは技へと変わる。
これといった決まった名称は無いが、いうなれば"活性化"であるだろう。
一時的に身体能力を向上させたり、体を癒したりと応用は効く。
しかし、その分の体力は取られるし、内部に異物があれば、癒えても痛みからは逃れられない。あの時の魔王との戦いもそうだった。
相性も悪く、私にとって魔王は天敵だっただろう。
ナイフを振り、血を振り払っておく。兎達は......本来は沢で冷やし、血抜きして捌きたかったが、血抜きには時間が掛かり過ぎる。
毛皮だけ取っておこう。
お肉はまあいつもの通り、空に向かって投げれば、人間だってワイバーンとかに食べて貰えるし、大丈夫だろう。
視力に"活性化"を使用して、空を飛ぶ猛禽類、竜種を探るとすぐに飛行する黒い粒を見つけた。長いしっぽに刺々しい翼は竜種に間違いないだろうが種類までは分からない。が、食べてくれるならそれで結構。
私は兎の脚部を握り、体全体を活性化させる。そして全身の体を使う様に、兎をクルクルと回して、空の小さな黒い粒に向かって投げるっ!!
「ふぅ......」
あと二体、ワイバーンだったら余裕で食べ切るだろうと、ポイポイと黒い粒に向けて投げた。
私は肉を処理出来て嬉しい、ワイバーンは沢山食べれて美味しい、のウィンウィンの関係だな。
と、移動しようと思ったが、兎の毛皮三枚は結構重い。仕方なく引きずりながら、石壁まで辿り着く。活性化は力を一瞬しか入れられないから仕方ないが、石壁の向こう側に投げるぐらいなら可能だ。
腕に活性化を掛けて、向こう側に投げるとドサッと落ちる音。それと———
「うわっ!?なんか落ちてきた!」
幼い男の子の声が聞こえてきた。ま、不味ったか?
慌てて足に活性化を使い、石壁の上に飛び上がるとそこには、毛皮を触る茶髪の子供がいた。驚いた声は男の子っぽい声だったが、女の子のように髪が長く、可愛らしい顔をしている子供だ。
するとその子供と目が合った。
「......」
なんとなく、目を逸らしてしまうが興味深そうな目で私を見てくるのが分かった。しかし、その視線は嫌いだ。
「何してるの?」
子供の質問責めは嫌いだった。聞く必要のない事まで聞いてくるからだ。
要件をさっさと話し、拒絶する。それが私の前世の、人との関わり方だった。
「それ私のだから、触るな」
だから、言ってしまった。
拒絶してしまった。
私はまだ、千年経った世界でも鎧以外にも壁を隔てるのか。
言葉の後を、後悔が追った。
「ごめんなさい。でも、兎を狩れるなんて凄いね!」
そうだ私には非は無い。しかし、子供にフォローされた。言え、何かを言うんだ私。
「......いいよ、別に」
余裕が無くなり、死に際に立たされるとヒョイヒョイと言葉が出てくる事が、魔王戦で発覚した私だが、普段は口数が少なくなる。
私はこれまで人を避けてきた訳は、姿を見せてはいけないから、これ以上仲良くはなって欲しくなかったからだ。
その癖は記憶だけで無く、魂にまで染み付いたかのように私から言葉を奪う。
私では無く、私の種族だけが求められる世界は変貌を遂げたのにも関わらず、私の心は未だ変化しないままだ。
言いたい事が出ない。
私はここまで閉ざしていたのか、そう実感せざるおえなかった。
「おい!!危ないから早く降りるんだ!」
遠くから声が聞こえた、大人の男の声で太い声をしている。
村の見張り番か?
子供だからといって、グチグチと説教はされたくはないな。ここはサッサと逃亡させて頂こう。
と、兎の皮を三つ持ったが重い......!くそ、一個見捨てるか。
そう思っていると、目の前の子供と目が合った。直ぐに逸らしたが名案を思いついた。
この子供にあげればいいか。大人に外に出た事をバレなければそれでいいし。
「これやる。」
「え、良いの?」
「親にバラすな。早く去れ、大人が来るぞ。」
子供にそう言って、私はさっさと声が掛かった逆方向へと逃亡する。
気が付くと日は暮れて、オレンジ色になっていた。これは数日は外に出ないで、と母親に捕まるな.......
家の近くでお面を外し、チラリと家を見てみると家の前には案の定、母が.......って毛皮どうしよう!?
手に活性化を使用して、母の死角となる庭先の端に投擲する。そして落下音がする直前に————
「おかーさーん!」
といって抱き着く!やむを得ぬ媚びだ。前世の私としての恥となるが、現世では一般的な年齢のハズだっ!!
母の腹への直接攻撃と普段しない珍しいさ、それらが生み出すモノは————
「あらら!本当は行きたくて外に出ちゃったのかしら!」
母はルンルン気分で私を抱き上げて頬擦りされた。
こんな事になるならば、兎の毛皮など回収しなければよかった。
敗因は距離か?私の歩幅か?時間配分か?
そんな事を考えながら、私は母に運ばれ家に入っていく。そして、外に出ていた理由を聞かれる前に話題を変える為に、言うのだ。
「今日のご飯はー?」
嘘だ。本当はメシの事しか考えていない。
兎の毛皮など、お肉を連想するだけに過ぎないのだ。
「うふふ......ルミちゃん、食べ物に釣られて変な人に付いてっちゃダメよ〜〜?」
そう何故か、笑われながら母から言われた。
何故だ?




