7年間の衝撃
気付けば前世の記憶がある。まだ成長しきれていない私には入れきれない程の膨大な記憶は、頭の中で紙を無理矢理詰め込んだかのように奥でグシャグシャとなっている。
最初はパンクしていたが、頭の容量が増えると共にその紙は広がっていく様に、記憶がしっかりとしてきた。
しかし私であって、私でないあの人格はあの記憶に曲げられた嘘の塊なのではないか?
もし転生しなかった場合、私の記憶を宿さないこの身の私の方が無邪気だったのではないか?
当初、様々な考え方が交錯したが、アレは不安定な時期だったのだろうか、今の私は微塵もそんな気持ちが湧かない。
そう、七歳の私には!
生まれは上流階級の方々では無く、身分に追われる立場では無い事に安堵した。人族の一般的な村に生まれて、両親ともに愛され過ぎてはいるが、順風満帆な毎日を過ごさせて頂いている。
今の容姿は完全に、前世の幼少期と類似していた。
白色肌に、より白い艶やかな髪。
ぴょこりと生えた角は乳白色で艶々と光を反射し、尾骨からは無機質に似た質感の細い尻尾だ。
その姿は魔族の夜族を白色に変えた、まさに名の通りの白夜族だ。
そして現世通りの薄い赤い瞳。白夜族は様々な色の瞳を持ち、遺伝には影響しないそうで。
アルビノの夜族と言われれば、完全にそうだが、魔族にはアルビノやメラニズムは古来より産まれないとされている。野生から生まれた獣人、人類とは非なる魔神の血に狂いは存在しない。その魔神の血を引いた人類である魔族であっても、それは同義。
完全なる白夜族として生まれた私に、親は驚き教会へと運び込まれて、アルビノの悪魔憑きであると言われた。
悪魔憑きは腹にいる間に子供に憑き、身体を都合のいい様に変えるのだ。それによって角や尻尾、翼など、好き勝手に生やすそうだ。しかし、中の悪魔は教会ですぐに払われるそうだが。
そんな訳で悪魔祓いされた私だが、体に悪魔はいなかった、と神父に言われた。
それを見ていた修道女達は流石、流石と褒め称えられたが、意味はよく分からなかった。アルビノだから打ち勝ったみたいな感じなのだろうか?
そんな訳であれこれ問題があったものの、私は白夜族でありながら一般的な生活を送っている。
「ルミちゃーん!ヨシヨシ可愛いねぇ〜!」
煌めく金髪の美しい長髪の少女が私の髪を撫でながらそう言った。その少女は私をひたすらに甘やかす、子離れ出来ない母、ミディスだ。
おっとりとした性格で八方美人、村で評判の母親だ。
しかし、私へのペット扱い感が否めないのが難点だ。
「ルミ。お父さんが狩ってきた肉だぞ〜食うかぁ?」
こちらはブロンドの短髪イケメン。好青年という印象を与える彼は私の父、ルークだ。父はよく狩ってきた魔物の毛皮や肉を自慢げに見せてくる。まるで褒めて褒めてと尻尾を振る犬のような人だ。
ただ、血滴る生肉を自慢げに見せてきたのは正直引いた。私が血の匂いで目が覚め、寝起きに生肉を見せて来られた時、なんてコイツは非人道的、サイコパス野郎なんだと思ってしまう事もあった。
とまあ、母と父の三人家族で暮らしている。父は数日置きに出掛け、狩りに行きそれで生計を保っている感じだろう。
私が一日にやる事といえば、家事の手伝い程度だ。さて今日も私の日課の外に出たいアピールでもするか。
「おかーさん、おかーさん。私、お外行きたいな」
「ルミちゃんは日光あんまり浴びちゃダメなのよ〜お外は庭までにしなさい?」
私は母の過保護に不満を持っている。
庭先だって村の中だって同じなはずなのに、母は私を外に出させてはくれない。それは本来の意味で無く、アルビノだと勘違いしているからでは無いのは理解している。
アルビノは日光に弱く日焼けしやすいが日中、暇さえあれば庭で遊び回る私の姿を嫌ほど見せ付けたのにも関わらず、外へと出さない。
私は考えっぱなしの毎日を送っている。
母の思惑に様々な説を立てたが、"アルビノ"と"悪魔憑き"という一般と異なる姿による、周囲への影響を理解した上での、私の成熟待ちだろう。
私の頭が理解出来る容量となったその時に、全てを話し、少しでも他者から傷付けられぬ様に立ち回らせる。
また、周囲の年代は子供であり、子供はダメを知らずに人を傷つける事を知らずに、からかい、差別を平気で行うだろう。その子供達から保護し、周囲の成熟も行う。
良い手段だと、この説を考えた私ながらに思う。まあ、例外として子供な大人、馬鹿な大人、クズな大人が存在する事を忘れちゃ行けないが。
「はーい」
最近では駄々を捏ねて、せがむ事はしていない。説を立てて行く度に無駄だと感じたからだ。
しかし、今日は珍しく父の助言が入った。
「もういいんじゃないか?」
なに対する事かは不明だが、母の思惑の事であるのは間違いない。
しかし、父よ。
ここはまだ粘る時ではないか?私の説では、過半数がまだ先延ばしした方が良いと判断するだろう。
「薬はもう大丈夫かしら?」
薬?精神でも強化する妙薬か?そんな盛られた覚えなど無い。毎日やってる事としたら、日焼け用の薬を......まさかあの塗り薬か!?あれで精神力を......!!
「賢者が作ったから、効果はバッチリのハズだ」
けんじゃ?ケンジャさんかな?調合師のケンジャさん......なんだが強い薬が作れそうな名前だな!
「......じゃあ、結界を短時間だけ消してみるわ」
けっかい?なんの事だろうな。まさか、あの高位魔術師しか使えない結界じゃあるまいし、平民の母が使える訳ない。結界なんて使えたら、こんな何も無い村にいないだろうし。
そう言って庭に連れ出された。え?何するんだ?
突然、ガラスが割れるような音で空が割れる。
私が見ていた空が普通の色で無い事を生まれて初めて、理解した。
普通の空はもっと淡い青色だったのだ。
え?
コレは前世で叩き割った事のある結界と瓜二つであるだろう、私に間違いはない。
ここで私の説が、この結界の様に割れた。それと共に結界を駆使出来る母の存在は何なのか、すぐに頭をフル回転させて考える。
その間に時間は勝手に過ぎていく。
「痛くない??ヒリヒリは無いかしら!」
「赤くなっていないな。異常は見られない!」
何分経ったか覚えてないが、そう言われても日光で日焼けなど、一般人と同じである為、頷いておく。
「きゃ〜!!ついに克服したのね!!」
「良かったな!!ルミ!」
「これで念願の母娘でショッピングが出来るわ!!」
「よし、ルミ!狩りに行こう!!」
抱き合う父と母。ここで前提が崩れた。まさか本当にアルビノの為に結界を庭に張っていたなどとは思わなかった。
そして、私は立てた説が都合のいい方であると祈りながら、聞いた。
「おとーさんとおかーさんで何者?」
普通ならば、7歳に言われてビクリとする質問だが、この2人は普通じゃないのだろう、サラリと答えた。
「もう知ってると思っていたな!俺は魔王っていう怖い存在を倒した勇者なんだぞ!」
「うふふ、私はその旅に付いて行った聖女なのよ!」
予想だにしない答え、最悪な展開と驚きの事実で頭痛を感じた。
まさか、まさか7年間、ただの平民だと思っていた親が魔王を討伐した勇者と聖女だったなど理解する方が難しいだろう......
急募、一人称がうまくならないので美味しく調理してくれる方、募集!