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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第一章 銀髪の放浪者

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第二十話 さらば、バラ色の放浪生活

「さてと。街に戻るか」


「あ」


 そう言って手を差し出した俺に、ラキアが不思議な声を出した。


「……なんだ。どした?」


 訊くと、彼女は酷く慌てたように口を開いた。


「いや、あの、えっと、あり、ありがとう、ございました……」


「……えらく歯切れが悪いな」


「えと、いえ。その、はい」


 どうにも不審な彼女の態度に、なんだろうかと首を捻る。

 やけに畏まっているというか。なんと言うか。

 まさか。


「あー、もしかして、怖かったか、俺?」


 何かを誤魔化すように後頭部を掻きながら、そう尋ねる。

 まあ、なあ。人間相手に、指輪で強化された状態で暴れたからなあ。

 怖がられても仕方ないか。

 そう反省していると


「そ、そんなことはないわ!」


 ラキアは、思いのほか全力でそれを否定してきた。


「お、おう。そうか」


「ただ、その。すごい強い人だったんだと思って……王様から剣を貰ったっていうのも、なんだか、納得できたから……もしかして、すごい偉い人なのかもって、思って」


「なんだ。もしかして、俺があの、アルバイン大将軍だとでも思ったのか?」


 笑いながら、無い、無いと手を振る。

 内心は冷や汗ものだが。


「俺はこの通りの、ただの旅人さ。大体、大陸の英雄とかいう偉い大将軍様が、こんなところをぶらついているわけないだろ? それにほら、この通りの銀髪だし。王様から短剣を貰ったのも、前回の戦でちょっとした手柄を立てたご褒美なんだよ。まあ、その、自分で言うのもなんだが、腕は立つんで」


 ありったけの誤魔化しを並べ立てながらそう言うと、ラキアも納得した様子だった。


「そっか。そうよね。そもそも、国の主将なんてやっていれば忙しいだろうし、色々と責任もあるだろうし、旅なんてしてる暇があるわけないものね」


「うっ」


 あははと笑う彼女に、思わず胸を押さえた。

 心が痛い。

 が、バレるわけにはいかない。

 そうなれば、俺のこのバラ色の放浪生活が終わってしまうからだ。


「ありがとう、ルシオ」


 言って、ラキアは手を差し出した。


「なぁに。ちょっとした約束を守っただけさ」


 答えて、俺はその手を握り返す。

 約束? と彼女は首を傾げていた。

 男と男の約束だ。こういうのは言わないほうがカッコいいのだ。


「とにかく、街に戻ろう。自警団を呼んで、連中をしょっ引いてもらわないと」


 話を打ち切るように言って、ラキアたちを先導するように歩き出す。

 連中に乱暴されていた女性たちは、やはり何も言わない。

 ただ傷つき、消耗したように項垂れている。。

 俺には彼女たちを救う方法がわからない。

 ただ。立ち直れるように願うばかりだ。

 こういう時、男は無力だ。

 そんな俺とは違って、ラキアは必死に彼女たちへ声を掛け続けている。

 語る言葉は、未来への希望に満ちたものばかり。

 こういう時は、やはり女性のほうが強いということなんだろう。


 森を抜けて、ラキアたちと街へ戻ると大門が開いていた。

 その前には見慣れた紋付きの馬車が数台に、軍馬が数頭。王都の近衛騎士団の旗に混じって、“鉄槍”マルクロメイン伯爵の馬車もある。

 マルクロメイン伯爵は戦場で背中を任せたこともある戦友の一人だ。

 初老に差し掛かっているが、背はすらりと伸びて、どこか鉄槍を彷彿とさせる雰囲気の人物だった。

 今どきの貴族とは思えないほど誠実な人格の持ち主で、その見た目と二つ名通り槍術の達人でもある。

 あの伯爵が、この辺の領主だったのかと思っていると。

 ちょうど、門から騎士たちの一団が出て来た。


「王都の騎士団……? もしかして、アイツらを捕まえに?」


 隣でラキアがそんなことを呟いている。

 いやいや。そんなはずはないだろう。なんで山賊如きを相手に、領主と近衛騎士団がわざわざ。

 嫌な予感がする。

 と、そこで。騎士団の中でも他の者より、遥かに立派な装備をしている騎士と目が合った。

 くすんだ金の長髪を丁寧に撫でつけた、生真面目そうな面立ちの男だ。

 なんとまあ。アンヌ―レシア王国近衛騎士団の副団長まで。

 と、その彼の俺を見る目が、きりっと細められた。

 不味いと思った時には、もう遅い。


「あそこだ! 逃がすな!!」


 彼が叫ぶなり、部下の騎士たちが猛然とこちらへ駆けてくる。


「え、え!?」


 ラキアと女性たちが戸惑っているうちに、あっという間に周りを囲まれてしまった。

 騎士たちには一分の隙もない。むしろ、今にも剣を抜きそうな勢いがある。

 そんな彼らを押し分けるように、生真面目な副団長が俺の前へと進み出てきた。


「ようやく見つけましたよ。アルバイン将軍」


 アンヌ―レシア王国近衛騎士団副団長、ダスティン・ユーウェルは厳しい目で俺を睨みながら、まるで叱るような口調でそう言った。


 さらば。たった半月の、バラ色の放浪生活よ。

 え? というラキアの茫然とした呟きを隣で聞きながら、俺は深く溜息を漏らすのだった。


第一章完結。

しばしお時間を。来週中には更新再開です。


お楽しみいただけたら、是非とも評価をお願いしますー

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