第三話
---<第三話>-----------------------------------------------------
次の日の朝8時。女の子が船の入り口まで飛んで行くと、トトが立っていた。女の子は挨拶する。
トト :「おはようございます」「昨日は よく眠れましたか?」
女の子:「あの後、バステトという人に会ったんですが、ご存知ですか?」「私が幼い頃、家にやって来た猫なんです」
トト :「バステトは何か言っていましたか?」
女の子:「まだ その時ではないと、だけ・・」
トト :「なら、そうなのでしょう。これからどうするかは、あなたが決める事です」
女の子:「でも私・・・」「・・・」
トト :「では何故、今日いらっしゃったのですか?」
女の子:「それは、あなたに聞きたかったのと、昨日女の人の所へ行く途中で気になった事があるんです」
:「私、ちょっと行ってきます」
女の子は船から10メートル程離れた所から下界へ。
降下しながら、次第に目的地に近付く。
「やっぱり凄く大きな力を感じる・・・」
着いたのは、大仙陵古墳(仁徳天皇陵)の上空。
「間違いない。ここだわ」
女の子は3人に呼び掛ける。
女の子 :「この場所で何かを感じるんです。皆さん集まって頂けませんか?」
トト :「はい。すぐに参ります」
ホルス :「おう」
アヌビス:「わかった」
1分後、3人が上空から降りてくる。
女の子 :「これ、何でしょうか?」
アヌビス:「封印だな」
:「この世界には様々な『流れ』が存在する」「風が吹くと物が飛ばされるように、魂もまた、流される」
:「ここには、その流れに捕まった死者の魂やカケラが集まって来るのだろう」
:「それも、悪しき魂が」
:「下界を彷徨う死者の魂は、生ける者の魂にも多少の影響を与える」
:「それ故、この土地に住む者たちが封じたとしたら、これは、『風』が与えた罰なのかも知れんな・・・」
トト :「アヌビス、開放しますか?」
アヌビス:「無論だ」
アヌビスはそう言うと、右手を広げた。すると、掌からピンポン玉くらいの光る玉が出現する。
その玉はゆっくりと形を変え、古墳と同じ 鍵のような形となった。(古墳の真ん中の部分)
アヌビス:「ホルス、頼む」
ホルス :「任せな」
その鍵はホルスの胸元へ移動する。ホルスが両手を出すと、鍵は真ん中に来る。
次にホルスが両手を広げると、鍵はみるみる大きくなった。
やがて、鍵は古墳と同じ大きさになり、古墳の中へ入って行く。(半透明の光が すり抜ける感じ)
10秒程経って、古墳を中心に半径2キロの範囲が光り出した。
直後、中心から巨大で真っ黒な球体が浮かび上がって来る。全員中心から離れていく。
トト :「それでは、時間を止めますね」
女の子 :「わあ、周りの色が無くなっていく」(注:お約束みたいなものなので)
2分後、球体が全て地上に出る。
ホルス :「中に入るぞ、ついて来い」
トトを除く3人が中に入る。
・・・中・・・
女の子 :「真っ暗ですねえ」
ホルス :「ちょっと待ってなっ」
ホルスは両手を出す。(小さく前にならえみたいな形)
真ん中にピンポン玉くらいの光が浮かび上がる。その光は球体の中心に向かい、あっという間に全体を照らし出した。
女の子 :「何、この声」
耳を澄ますと色んな声が聞こえて来る。
呻き、泣き声、叫び、悲鳴、どれも耳を塞ぎたくなるものばかり。
女の子は声のする方向へ進む。
半透明だが、血まみれの人、骨と皮だけになっている人、鎧姿で刀を振りながら何かから逃れようとしている人、下を向いて ただ歩く人、その他色々。
女の子は声も出さずに、じっと見ている。
そこへアヌビスがやってきた。
アヌビス:「この者たちは この空間の中で、生と死の間の状態にさせられている」
:「例え死を望んでも、死ぬ事なく永遠にな」
:「私の役目は、死を望む魂に死を与える事だ」
アヌビスが右手を広げると、掌から野球ボール位の青白く光る玉が現れた。
アヌビス:「この世に生ける如何なる者も分け隔てなく、等しく死を与えん」
光る玉は中心に向かい、すぐに全体を覆った。死者の魂は玉状になり、何十万という数が球体の外へ次々と出て行く。
ホルス :「出るぞ」
:「魂のカケラも相当な数だ」
3人は外へ出る。
ホルスは両手を大きく広げ、そして、ゆっくり閉じていく。球体はどんどん小さくなり、中にある 魂のカケラは集まって塊になった。
トト :「時間を動かしますね」
ホルス :「オレは これを船まで運んでくる」
ホルスは直径5メートル程になった光る塊と一緒に昇って行った。
女の子 :「封印を解いたら、ここに集まって来る魂はどうなるんですか?」
アヌビス:「心配するな、すぐに分かる」
古墳の中心から光の柱が伸びて、天に向かう。(鍵の形で)
アヌビス:「これで、ここに来た魂は そのまま天に昇るだろう」
トトが女の子の正面に来て、女の子の顔を見ながら、
トト :「素晴らしいですわ」
アヌビス:「そうだな」
女の子 :「いえ、そんな事ないです・・・」
トト :「そうそう、船に戻ってみて下さい。開放した魂が見られますわ」
女の子は船へ戻る。船尾にホルスが立って、こちらの方向を見ている。女の子はホルスの隣に降りて、同じ方向を向いた。
ホルス :「そろそろだ」
女の子が出てきた辺りから、野球のボール位の光る魂が1つ、また1つと出てくる。
やがて、出てくる魂の範囲は広がり、2人が立っている所の周りからも出始める。(半径15メートル位の範囲)
魂は次々と出てきて、ゆっくりと上昇していく。(魂と魂との間隔は平均で50センチ位)
女の子 :「綺麗・・・」
ホルス :「まあな」
10秒程経って、女の子は中心まで飛んで行った。そして、中でくるくると回りながら楽しんでいる。
魂は50メートル程上昇した後、船首の方向へ進んで行く。
5分後、もう魂は出てこなくなったので、女の子はホルスの所へ戻った。
女の子は3人に話し掛ける。
女の子 :「さっき、沢山の魂が私に語りかけてくるような、不思議な感じがしました」
:「私は、何かをしなくてはいけない、今、そんな気がするんです」
:「トト、アヌビス、来てください」
トト :「はい」
アヌビス:「すぐに行く」
次の瞬間、トトが女の子の前に一瞬で現れる。
トト :「お呼びですか?」
女の子が少し驚いて黙っていると、
トト :「私は、この世界のどんな場所でも一瞬で行く事ができます」「便利でしょう」
トトがそう言い終わる頃、アヌビスが女の子の前に降りてくる。
アヌビス:「待たせたな」
3人は女の子の顔をじっと見ている。
女の子 :「私、皆さんと一緒に行ってもいいです」
:「まだ、私に何ができるのか分かりませんけど、頑張ります」
トト :「ありがとうございます」
:「では早速、と言いたい所ですが、今のままでは恐らく辿り着けないでしょう」
女の子 :「やっぱり私の記憶が戻らないとダメなんですか?」
トト :「いえ、そういう訳ではありません」
:「私たちが行っている事は、ファラオと我々4人だけの話ではないのです」
:「今は焦らず、ゆっくりと参りましょう」
女の子 :「ところで、私、いつも出歩いていると親が心配するし、学校の宿題とかも・・」
ホルス :「なら、お前の体が2つあればいいのか?」
ホルスはそう言うと、右手を広げ、掌から野球ボール位の赤く光る玉を出した。
ホルス :「これは、この世界のどんな物でも照らす事の出来る光の玉だ」
光の玉は女の子の体の中へ入って行く。すると、女の子の体から影のように もう一人出てきた。
ホルス :「どちらも お前自身だから、どんなに離れていても意思の疎通は可能だ」
:「但し、もう一人はアンクの力は使えないぞ」
女の子 :「ホルス、ありがとう」
トト :「では、私は もう行きますね」
ホルス :「行くか」
アヌビス:「私もそろそろ行こう」
女の子はホルスに声を掛ける。
女の子 :「ホルス。さっき船からずっと見てましたよね」
他の2人は下界へ向かう。
女の子 :「やっぱり綺麗だからですか?」「それとも今までにも同じ事があったんですか?」
ホルス :「今回程ではないが、戦争が起こった時にな」
女の子 :「ごめんなさい。私そんなつもりじゃ・・・」
ホルス :「オレは、お前のそんなところは嫌いじゃない」
女の子 :「・・・」「私、もう行きますね」
女の子は、自分の分身と手を繋いで下界へ。家の近くで分身と別れた後、すぐに空へ飛び立って行った。




