第十一話
---<第十一話>-----------------------------------------------------
船が冥界の門の中に降りると、上空のブラックホールが消える。(ファラオの裁きを行った所)
ヌトを先頭に沢山の神の姿が見える。
接岸し、オシリスがヌトの前まで歩いて行く。
ヌト :「オシリス、よくぞ戻られました」
オシリス:「留守中、ご心配をお掛けしました」
トト :「私達は地上を見て参ります」「オシリスは冥界をお願い致します」
バステト:「おや、地球の外の時間が止まったようですね」
トト :「何かをする気なのかも知れませんね」
トトを先頭に5人で地上に向かう。下を見ると、あちこちから煙が上がっているのが見える。
道路では車が衝突し、航空機は墜落。飲食店等から火災が発生している所もある。
ホルス :「なあ、そろそろいいんじゃないか?」
トト :「そうですね」
上空300メートル程の所を暫く飛んでいたが、トトは動きを止める。
トト :「皆さん、何か名案でも思い付きましたか?」
トトは振り返り、4人がトトを見つめている。
トト :「この世界に完全な物は存在しない。でも、あってもいいと思いませんか?」
:「私は、永きにわたり、『特異点』の中で答えを探し続けました」
:「もし、答えが見付かったなら、影である私が この世界の管理者となる条件で・・・」
トトの姿が『アトゥムの影』に変わる。
アトゥム:「しかし、我にも分からなかった」
トト :「では、こうする事で答えに近付けると考えたのですか?」
突然、本物のトトが現れると同時に、『アトゥムの影』が直径2メートルの黒い球体に包まれる。
女の子 :「トト、無事だったんですね」
アトゥム:「やっと全員揃ったか」
次の瞬間、5人の周りを7人の『アトゥムの影』に囲まれる。
トト :「それは、此方も同じですわ」
トトが そう言い終わる前に、7人の『アトゥムの影』も黒い球体に包まれる。
アトゥム:「まだまだだ」
空全体が黒い物で覆われる。少しずつではあるが、空が地上に近付いているように見える。
トト :「我慢比べですか?」
アトゥム:「全員で『特異点』になるのも悪くなかろう?」
<回想:イシスの部屋>
ホルス :「単刀直入に言う。トトは母さんを試している」
:「これまでの事は全て予定通り、そして、これから起こる事も・・・」
:「だから、オレの力を母さんに預ける」
バステト:「私も同じ考えです」
:「イシス、あなたには、真の名前を知る事で、その者の力を自由に使える能力があります」
:「多くの者は、あなたの力を恐れています。それは、アトゥムも同じ」
:「あなたは、『力』を望みますか?」
女の子 :「・・・」
:「私、最近、自分が少しずつ変わっていく感覚があるんです」
:「皆と出会ってから ひと月位しか経ってないのに、ずっと前から知っているような」
:「電車の中で初めてホルスに会って、皆と会って、魂のカケラを集めて、冥界に行って・・」
:「あれから色々考えたんです」
:「自分の事。皆の事。この世界の事」
:「・・・」
:「私、変わる事を望む人達に、何か出来る事があるんじゃないかと、そう思うんです」
バステト:「自分の『力』に負けない自信はありますか?」
女の子 :「はい」
ホルスとバステトは、目を閉じて両手を肩幅まで広げる。
ホルスは赤、バステトは黒の光の玉が現れて、直径50センチ程に成長する。
2つの玉は女の子の前で1つになり、まるで血液のような色となって、女の子の胸の中に入って行く。
バステト:「言い忘れましたが、今、船首に居るトトは偽者です」
:「船の行き先を念じた時、『アトゥムの影』に隠されてしまった様です」
ホルス :「トトなら大丈夫。何か手を打っている筈だ」
<回想終わり>
女の子は目を閉じて考えている。
10秒後。女の子は目を開ける。
女の子 :「私、決めました」「バステト、『特異点』を私に貸して下さい」
バステト:「はい」
女の子は『特異点』を受け取ると、右手で握り、目を閉じる。
全員、女の子に注目している。
30秒後、女の子は目を開け、右手を開く。すると、『特異点』からピンポン玉位の青く光る玉が出てきた。
アトゥム:「よかろう」「イシス、お前を信じよう」
青い玉は、女の子の顔の前に移動して2秒程静止した後、正面の『アトゥムの影』の近くまで飛んで行き、元の姿に戻る。
女の子は右手を閉じて『特異点』を仕舞った後、
もう1度右手を開き掌から野球ボール位の光る玉を9個出した。
それらは、其々の『アトゥムの影』の所まで飛んで行き、直径2メートルの球体となって、『アトゥムの影』を包み込む。
そして、女の子は、今度は左手の掌から、同じく光る玉を1個出す。それは、女の子の正面で直径2メートルの球体となった。
次の瞬間、女の子正面の球体の中に『アトゥムの影』が現れ、残りの『アトゥムの影』は全て消える。
トト :「この手がありましたね」
アヌビス:「交換で1つにしたのか」
アトゥムは目を閉じて心を1つにしている。
数秒後、目を開け、
アトゥム:「面白い」「イシス、本当に出来ると言うのなら、お前の考えに賛同しよう」
女の子 :「トト、1つ質問があるんだけど」
トト :「何でしょう?」
女の子 :「アトゥムは、ずっと一人なんですか?」
トト :「はい。外の世界に居ないと、中の様子が分からないのです」
女の子 :「そうですか。分かりました」
:「これが私の答えです」
女の子は掌を上に向け、両手を広げる。女の子が目を閉じると、翼が生え、頭上に銀色に輝く光の玉が現れる。
光の玉は成長し、直径2メートル程になったところで、女の子が目を開ける。
やがてそれは、加速度的に大きくなり、地球を包み、太陽系、銀河系、宇宙全体へと広がっていった。
1分後。女の子の翼は消える。
女の子は右手を開け、再び『特異点』を出す。そしてそれは、皆の見ている前で、姿を消した。
女の子 :「誰かが『特異点』に居続けるより、この世界に住む皆が、ほんの少し、」
:「そう、意識が有るか無いかの僅かな時間・・・」
:「一生に一度の一瞬だけ、『特異点』の中に入って、この世界の秘密を知るのもいいと思うんです」
トト :「あれっ、もしかして、これ全部『目』ですか?」
トトは目を寄せて何かを見ている。
女の子 :「はい。この世界に存在する『電子』の全てに、ホルスの目の力を宿してみました」
:「授業で習ったんですけど、電子は追い払ってもすぐに新しいのがやって来るし、」
:「位置と運動量を同時に測る事が出来ないそうなんで、『目』にしたら面白いかなぁって」
:「これで、『特異点』の位置も分かるし、アトゥムの仕事も楽になると思ったんですけど・・・」
全員黙って、女の子を見ている。いつの間にか、黒い空も、『アトゥムの影』を包んでいる黒い球体も消えていた。
アトゥム:「ハハハッ、異存は無い」
トト :「私もです」
トトがそう言い終わると、地上と空が消え、5人は宇宙空間の中を漂っていた。『アトゥムの影』の姿はもう無い。
遠くを見ると、船の上に沢山の神が乗っているのが見える。
女の子 :「えっ、どうなってるんですか?」
トト :「全て終わりました。『アトゥムの影』に勝ったんです」
:「そして・・」
:「イシス、あなたが、この世界の新しい管理者です」
・・・次の日・・・
女の子は学校に向かう。
(以下、女の子の心の中で回想)
あの時、地球から居なくなったのは、人や魂ではなく、神様の方だった。
私の分身の意識は感じなかったから、バステトが言った通り、皆 結界の中で封印されていたんだ。
後から聞いた話だと、
一昨日の朝、トトが準備をするって言ったのは、
戦いに備えてアトゥムから一時的に『力』を借りる為だった。
そして、『アトゥムの影』との戦い。
『アトゥムの影』はずっと『答え』を探していた。
完全な物は存在しないと分かっていても、探さずにはいられなかった。
だから、自分が納得したら、それが『答え』になった。
それにしても、ホルスとバステトが部屋に来てくれなかったら、一体どうなってたんだろう。
ううん、きっと考え方が逆なんだと思う。
(回想終わり)
・・・学校の教室・・・
担任が入ってくる。
担任 :「今日は、皆に転校生を紹介する」「入れ」
制服を着たホルスが入ってくる。一昨日と全く同じ。
(以下の2行は心の中で話す)
女の子:「ホルス、今度はどうしたの?」
ホルス:「お母さんが心配だから・・」「トトもそれがいいって・・・」
担任が黒板に『庵 千隼』と書く。
ホルス:「初めまして。『いおり ちはや』です」「皆さん、宜しくお願いします」