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たぬきのおさら

作者: 友利りた

ほっほっ、ほっとけーき、ほっほっほー

ゆいちゃんは歌を歌いながらご機嫌です。今日はゆいちゃんの誕生日。ママがゆいちゃんの食べたい分のホットケーキを、お腹いっぱいになるまでたーくさん焼いてくれるという約束をしてくれたのです。なので、ゆいちゃんはお小遣いを貰って、今夜ホットケーキにつけたいジャムを、自分で選んで買ってくることになりました。

 ほっほっ、ほっとけーき、ほっほっほー

 イチゴジャムーはぜーったーいだー

 チョコレートソースもぜーったーいだー

 ブルーベリーで大人にーなってー

 メープルシロップじゅわじゅわーん

 たぬきのおさらでほっほっほー

 ほっとけーきだほっほっほー

そんな歌を歌っていると、がたんっと、少し大きな音がしたので振り向くと、小さな大人のおじさんが、転んで転がっていました。

「大丈夫ですか?」

ゆいちゃんが声をかけると

「大丈夫、大丈夫だけど…」

小さなおじさんはすごくきょろきょろしながら小声で聞きました。

「たぬきのおさらって、なんのことなのかな?」

ゆいちゃんは目を丸くして、「どうしてたぬきのおさらを知ってるんですか?」と聞き返しました。

「えっ、だって今、君が大きな声で歌っていたじゃない…」

小さなおじさんがそう言うと、ゆいちゃんは、「あっ、そうかぁ」と言って、くくくと笑いました。

 たぬきのおさらっていうのはね、ゆいちゃんが生まれた日におじいちゃんが買ってくれた、かわいいたぬきの絵が書いてあるおさらです。おじいちゃんはその後すぐに死んでしまって会えなくなってしまったけれど、ゆいちゃんのママが、おさらがあればいつだっておじいちゃんに会えるのよ、と言っていたから、大事な日や、おめでたい日には、いつもそのおさらを使おうねって、ゆいちゃんのおうちで決まっているという、とても素敵なおさらなのです。

ゆいちゃんは、おじさんにそのお話をしてあげようと思いました。でも、ゆいちゃんは小さいので、長いお話は難しくって、どうやって話そうかなぁと困っていると…

「たぬきにおさらがあるって、どうして知っているのかなぁ…」

おじさんが、小さな声でそんなことを言ったので、ゆいちゃんは大きな声で「えっ?」って思わず声が出てしまいました。

「君は小さな女の子に見えるけど、もしかして、ずっとずーっと年寄りなのかい?そうだ、きっとそうだね、変身も完璧だ。僕なんてまだまだやっと三十分できるようになったくらいで、ひよっこもいいところなのに…」

小さなおじさんは、ひとりでだだだだだっとしゃべると、「ごめんごめん、こんな道端で足止めしちゃってね。僕も急いでるからここらへんにするよ。たぬきのおさらの話はとっても秘密なんだからあんまり大きな声で言っちゃダメだよ、バイバイ」

小さなおじさんはまただだだだだっとしゃべって、とととととっと歩いてどこかに行ってしまいました。

「たぬきのおさらってなんなの…?」

ゆいちゃんはぼんやり考えながら、あっ、ホットケーキ!と叫んで、また歌いながらスーパーマーケットに歩いて行ったのでした。

 ほっほっ、ほっとけーき、ほっほっほー

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幸せな日常にふいに非日常が顔を出して、それを反省する暇もなくまたすぐに去って行くような、そんなお話でした。言葉の連なりやリズムがとてもきれいで、物語がすらすら入ってきました。とても面白かっ…
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