第九十六話 胡桃と自己嫌悪
時はあれから数分後。
場所は裏門近くのベンチ。
「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~……」
胡桃は絶賛落ち込んでいた。
その理由は簡単である。
「なにあれ……あれじゃあ情緒不安定のヒステリー女じゃない……」
けれど、やはり空に強さで置いてけぼりにされるのは、とてもつらい。
というのも、胡桃の中では空はご主人様であると同時、ライバルだと考えていたのだ。
通常のライバルの様に、対等に高め合う……とは言わない。
胡桃より少し高みにいて、身近で胡桃の目標となる存在。
彼女の中での空はそんなイメージだったのだ。
それがたった少しの間で置いてけぼり。
辛くないわけがない。
(でも、そんな苛立ちを空本人にぶつけても、なんの意味もないのに……バカみたい)
考えれば考えるほど、胡桃の自己嫌悪は深まる。
考えれば考えるほど、空への罪悪感は深まる。
「ちゃんと空に謝ろ……あいつ、許してくれるかな……」
もし許してくれなくても、しっかりと謝りたい。
胡桃がそう思えるほどに、空はいい人なのだから。
(最初はワーストの癖に『負けるか!』って顔してるのがイライラしたけど、あいつは必死なだけなんだよね)
ある意味では胡桃と空は同じなのだ。
上を目指して全力で進んでいる。
(奴隷云々は置いておいても……あいつとちゃんと話して、一緒に訓練とかしたら、あたしも強くなれるかな)
と、胡桃がそんな事を考えたのその時。
『緊急警報、緊急警報。学校内に怪人が侵入、学校内に怪人が侵入』
聞こえてくる放送。
その声は更に続けてくる。
『不正操作により校門のゲートが開かれ、多数の怪人が侵入しました。生徒及び職員は至急近くのシェルターに避難してください。繰り返します、生徒及び職員は至急――』
そこまで聞いて胡桃は立ち上がる。
そして、とある事を考えてしまう。
(怪人……ここで実戦を積めば、空に少しは追いつけるかも)
と、それと同時。
件のゲートを開く管理室の辺りから、爆炎が立ち上るだった。




