第九十四話 胡桃と空②
「今回は厳重注意ですましますけど、次からはそうはいきませんからね」
と、そう言って二人を見送るのは空である。
あの後、結局二人を鎮圧したのは空であった――胡桃が攻撃行動を起こすよりも早く、先に空が動いてしまったのだ。
しかも、空は魔法などを使うことなく、素手のみで瞬時に鎮圧してしまった。
胡桃は最初から、異能で二人を鎮圧しようとしたにもかかわらずだ。
(違う……異能で制圧しようとしたんじゃない。あたしは異能を使わなかったら、あんな奴らにも勝てないくらい非力なんだ。異能に頼らないと、あたしはただの――)
「胡桃、大丈夫?」
と、胡桃の思考を断ち切る様に、声をかけてくるのは空である。
彼は優しそうに首を傾げながら、言葉を続けてくる。
「裏庭の事件以降、なんだか悩んでるみたいだけど……どうしたの?」
「別に、なんでもない」
「いや、絶対なんでもなくないよね。自分で気がついてる? あの日以来、胡桃はすぐに相手の挑発に乗ったり、今みたいに挑発してみたり」
わかっている。
たしかに、今の胡桃には余裕がない。
身近で空という強い存在に出会い、胡桃も強くなりたいと願った。
けれど、空は凄まじい速度で成長しているのだ。
(きっと、空とあたしが今戦ったら、もうあたしは空に手も足もでない)
空の能力の詳細は知らない。
けれど、あの凄まじい速度で動く力を使われれば、《イージス》を使う間もなくやられるのは確かだ。
仮に使用できたとしても、全く動きに対応できない。
それでは守るばかりの亀――あの衝撃を伝える力で、《イージス》を抜かれて終り。
勝てる確率はゼロだ。
「っ」
いったい何が将来有望か。
いったい何が序列十位か。
いったい何が絶対防御か。
胡桃は弱い。
いまもこんな事を考えている自分が嫌になる。
一方の空は、胡桃がうじうじしているここ最近。
その間も、異世界で魔物相手に実戦を重ねていたに違いない。
経験値そのものが違うのだ。
(強くならないといけないのに……唯花のために)




