第九十二話 胡桃と理由②
(唯花は死んでなんかいない……絶対に生きてるんだから)
確固たる理由があるわけではない。
けれど、胡桃にはわかるのだ――未だ唯花との繋がりのようなものを感じるのだ。
(きっと生きてる。だから、あたしが助けないと……でも)
現実は甘くはなかった。
(あたしは弱いまま……全然成長してない)
最初に胡桃がそう思ったのは、初めて空と戦った時。
胡桃は彼の力に圧倒された。それも、確実に本気ではない彼に。
けれど、あの時の空はまだ追いつけそうな領域にいた。
だからこそ、胡桃は敗北を燃料にすることができたのだ。
二回目は違った。
空が暴走した生徒と戦ったあの時。
彼の力は異常だった。
あの時、空は目視すら出来ない速度で瓦礫のほぼ全てを粉砕。
生徒を全く傷付けることなく、瞬時に無力化してしまった。
追いつけない。
最強のヒーローになるとしたら、それはきっと空だ。
胡桃ではない。
(……なんて)
すぐに諦める自分の性根が嫌になる。
昔から何一つ変わっていない。
合理的に考え、自分の心を傷つけないように目的を諦める。
最悪だ。
きっとかつての自分は、こうやって唯花を見捨てたのだ――スカイのせいにすることで。
と、胡桃はそんな事を考えてしまう。
だが。
(何考えてんのよ、あたし!)
胡桃は首を振って、すぐに考え直す。
(こんなこと考えて、弱気になってるから強くなれないのよ!)
仮にかつての胡桃が無意識的に唯花を見捨てたとしても。
仮に胡桃が最強のヒーローになれないとしても。
(あたしは絶対に強くなってみせる。そして、今度こそ唯花に手を伸ばしてみせる……あの子を救ってみせるんだから!)




