第八十八話 空と風紀委員のお仕事③
学内序列五位 一色氷菓。
氷を生み出す異能 《アイスエイジ》を使いこなす少女。
氷を使う異能は数多くあるが、特質すべきはその出力だ。
空が周囲を見回すと、そこは一面氷に覆われた空間になっている。
さらに、春をすぎた頃だと言うのに、空からは雪が降り始めている。
個人の異能でここまでの範囲に影響もたらし、天候すら変える。
氷菓の実力は間違いなく、時雨に近しい領域にある。
(まぁ氷菓さんに上昇意欲がないせいで、入学時からずっと序列五位なのが残念な点だけど……なにはともあれ、氷菓さんが異能を使った以上、もう周囲への被害は考えなくていい)
ここで空が暴れる生徒を抑えれば、この事件は無事に解決である。
それにしても。
「あが、ぐぎぎ……があああああああああああああああああああっ!」
と、再び風を放ってくる生徒。
空は風と、それに伴う瓦礫を全て受け流し、躱しながら考える。
(この生徒、明らかに様子がおかしい)
漫画やアニメであるように、異能が暴走して苦しんでいるようにしか見えない。
けれど、そんなことは絶対にありえない。
(異能の暴走なんていうのはフィクションだ。研究の結果、手足や内臓よりも安定していて、いわゆる痙攣の様な事を起こすことはないと証明されてる)
にもかかわらず、この生徒は胸を掻き毟り周囲に異能をぶちまけている。
おまけにこの生徒、どう考えても異能を使いこなせていないのだ。
(風系の能力の真価は範囲攻撃じゃない。出力を一点に絞って、空気砲のような使い方をしたり、真空の刃を生み出した攻撃だ)
なんにせよ、嫌な予感がするのは確かだ。
本当に彼が苦しんでいるのなら、すぐに戦闘不能にした方がいいに違いない。
と、空は左目へと意識を集中させる。
(レベル3になったおかげか、左目はまだあんまり痛くない。身体は少し違和感あるけど、筋肉痛より全然まし程度……となれば)
直後。
空の方へと飛んでくる無数の瓦礫。
件の生徒が再び、異能を使ったのだ。
故に、空はそれとタイミングを合わせるように魔眼《王の左目》を発動。
同時、世界の時間は静止したかのように緩やかになるのだった。




