第六百七話 空と世界③
「貴様が怪人ってやつか? 随分楽しそうだな、おい」
と、聞こえてくるのはアルハザードの声だ。
同時、彼女の蹴りが側頭部に直撃。
それを受けた骸骨竜が、真横へと吹っ飛んでいく。
「ほう……随分と硬いな。身体強化の魔法を山ほどかけたつもりなんだが」
と、一人呟くアルハザード。
彼女は骸骨竜から視線を切り、空の方を向いて言ってくる。
「で、だ。まるで初めて会った時みたいな状況だな……大丈夫か、小僧?」
「大丈夫、とは言えないですかね――でも、助かりましたよ」
「助かる、か。貴様のピンチならいつでも駆けつけてやるさ。例えそれが、俺の世界じゃなかったとしてもな」
と、笑みを浮かべるアルハザード。
さて、どうして異世界の住人である彼女がここに居るのか。
それは簡単だ。
空は斬ったのだ。
この世界と、異世界を隔てる壁を。
(剣技 《断空》は斬れないものを斬る技能。今の僕のレベルと勇者の力を合わせれば、ひょっとしたら……そう思っていたけど)
どうやら結果は成功したに違いない。
と、空がそんな事を考えていたその時。
「大変だ! クーが怪我してる!」
「く、クウ様! すぐに治します!」
聞こえてくるのはシャーリィとリーシャの声。
見れば、空が先ほど《断空》を使った辺り――そこに浮かぶ妙な亀裂の向こう側。
映る異世界の景色から、こちらへ走って来るのは先の二人だ。
「俺が時間を稼いでおいてやる。貴様はコンディションを整えてから参戦しろ」
と、言ってくるのはアルハザードだ。
彼女は片手に剣を持ち、空へと背を向けながら続けてくる。
「本気の貴様なら……そこの聖女と一緒に放つ技なら、あんな骸骨如き一撃だろう?」
「嬉しいですけど、アルハザードさんでも一人で挑むのは――」
「一人だと? 貴様は何を言っている。あれも貴様の指示だろ?」
と、アルハザードが指を刺したのは先の亀裂。
そこから聞こえてきたのは。
「王をお守りしろぉおおおおおおおおおおおおお!」
「今度は我々が王を救う番だ!」
同時、亀裂から溢れだす様にやってくる人々。
彼等は皆が武装しており、全員がレベル持ちの高名冒険者――もしくは高名な騎士なのが、その雰囲気から見て取れる。
そしてなによりも。
その数は軽く見積もっても、千を越え。
今も次々に増えていっている。
「最初は異世界の話をされて何かと思ったが。俺含め、最後には全員信じて準備をしっかり整えていたのは、貴様の人徳だよ」
と、苦笑しながら言ってくるアルハザード。
彼女は「ゆっくりしすぎるなよ」と呟いたのち、骸骨竜の方へと行ってしまう。
「…………」
たしかに空はリーシャへと言っていた。
なるべくレベルが高く、強い冒険者達を集めて欲しいと。
しかし、まさかこれほどの人数が集まるとは思わなかった。
(自分達の世界じゃないのに……それなのにこんな)
アルハザードは空の人徳だと言っていた。
本当にその通りだとしたならば。
「幸せ者すぎるな、僕は」




