第五百七十話 空と炎と……②
「時雨が危ない!」
と、空は魔眼を発動させたまま、全力で走る。
向かうは時雨を感じる場所だ。
そうして、空の体感時間でしばらく。
およそ十数秒、廊下を進んだ頃。
(こっちは被害が少ない? 壁や物が破壊されている形跡はある。だけど、火事にはなっていない……時雨も、みんなこっちに避難してるのか?)
なんにせよ、この数秒でわかったことがある。
やはり、これはただの火事ではない。
怪人の仕業だ。
怪人に地下がばれたに違いない。
空がそう考えた理由は、いくつかある。
先ほどの破壊痕。
それが戦闘の形跡に見えたというのも、もちろんある。
しかし、それは一番単純な理由だ。
(時雨がただの火事ごときで、危険に陥るわけがない! ここには大勢のヒーローも居るんだ! そんなの在り得るわけがない!)
いずれにしろ、答えは近い。
こうしている間にも、時雨の気配はどんどん近づいてきている。
もう少し。
もう少し。
もうすぐそこ。
次の角を曲がった先。
「っ!」
と、そんな空の目に映った光景。
それは実にシンプルなものだ。
ホールに集まった多くの一般人。
それを取り囲む、炎が噴き出す犬型の怪人。
しかも、怪人はかなりの数が居る。
時雨は異能をフル活用し、一般人を炎と怪人から守っているのだ。
守りながら、怪人と戦っているのだ。
けれど、さすがの時雨でも手数が明らかに足りていない。
きっと、時雨は容量以上の異能を発動させているに違いない。
このままでは負ける。
どれだけ持ちこたえていたのか、彼女の身体はすでにボロボロだ。
と、空はそれを認識した途端、頭が真っ白になる。
そして。
気がつけば叫んでいたのだった。
「僕の妹に、手を……出すなっ!」




