第五百四十六話 空は二連敗してみる
「兄さん……判断を誤らないでください」
聞こえてくる時雨の声。
見れば、彼女は怪人へと異能を発動。
彼女はそのまま、空の方へ歩きながら言ってくる。
「兄さんの目的はなんですか?」
「僕の目的? そんなの、あの怪人を倒してこの世界を――」
「違いますよ」
直後、怪人を包んでいた時雨の異能が弾け飛ぶ。
怪人が異能を無効化したに違いない。
それと同時、怪人は鎌を空達の方へと投擲してくる。
だが。
その鎌は空達の目の前で、不可視の何かに防がれ弾かれる。
果たしてその正体は――。
「空! あんた何してんのよ!?」
と、聞こえてくるのは胡桃の声だ。
きっと、異能で攻撃を弾いてくれたに違いない。
そんな彼女は、怪人を異能で牽制しながら、空へと言ってくる。
「あんたの目的は、もうとっくの昔に達成できてるでしょ!」
「でも、まだ怪人を倒してない!」
「あんたの目的は、怪人を倒すことじゃないでしょ!」
「っ!」
そうだ。
たしかにその通りだ。
空はそもそも、怪人を倒しにここに来たのではない。
ヒーロー達を、そして一般人たちを助けに来たのだ。
(正直、今ここでこの怪人と戦っても、勝ち目は薄い……冷静なつもりだったけど、いつの間にか熱くなってた)
目的を達成している以上、ここは退くべきだ。
これ以上戦うのは、どう考えても無謀だ。
なんなら、この怪人と対峙した時点で退くべきだったのだ。
なぜならば。
(聞かされたじゃないか。この怪人に勝てるプロヒーローは現状居ない――だから、僕が必要だって)
なのに、レベル無効化への対策がないままこの怪人と戦闘――結果敗北。
そのまま空が死ねば、この怪人を倒せる希望が潰えてしまう。
熱くなって、とんでもないことをしていた。
「ごめん……胡桃、時雨。二人の言う通りだ、判断を誤った」
「わかればいいのよ!」
「他のヒーロー達も向かっています……隙をついて逃げますよ、兄さん」
と、順に言ってくる胡桃と時雨。
空はそんな彼女へとうなずくのだった。




