第五百三十二話 空と緊急出動③
「向かった先で、生存者の痕跡を見つけたんです。それを追った結果……怪人に襲われている生存者を見つけたそうです――怪人に見つかるとしても、助けないわけにはいかないでしょう?」
と、言ってくる時雨。
彼女はそのまま空へと続けてくる。
「とはいえ、怪人の数は多いです……兄さんにも出来るようなら、出動してもらいたいと……多くのヒーロー達から声が寄せられています」
「だったらすぐにでも――」
「兄さん、本当にもう大丈夫なんですか?」
と、ジッと見つめてくる時雨。
彼女は空の方へ近づいて来ると、言葉を続けてくる。
「兄さんの出動は、いまのところ保留にしてあります」
「なんで!? そんな状況ならすぐにでも出た方がいいに決まってる!」
「怪我……心配なんですよ、兄さん。わたしは兄さんの妹です……兄さんをとても大切に思っています。そんな兄さんが無理しているんじゃないかと――」
「無理なんかしてないよ」
怪我はもう大丈夫。
それに、空には確信がある。
先の怪人たちとの戦闘。
あれにより、またレベルが上がっている気がするのだ。
なんせ、体中に今まで以上の力が漲っている。
これならばあの怪人にも負けない。
とは言えないが、他の怪人は確実に圧倒できる。
「時雨、場所を教えて」
「場所は子供の時によく行ったデパートです、けど……」
と、再び言い淀む時雨。
空はそんな彼女へと言う。
「大丈夫だよ、時雨。僕の怪我はもう問題ない、それに絶対にもう負けたりしない。時雨だって、どこかでそう思ってるから……僕を信じてくれてるから、わざわざ僕を探しに来てくれたんでしょ?」
「……ノーコメント、です」
「あんたたちさ、二人で盛り上がってるところ悪いんだけど」
と、言ってくるのは胡桃だ。
彼女は不機嫌そうな様子で、空へと言ってくる。
「行くなら行くで、さっさと行かないまずくない?」
もっともだ。
けれど、それはあくまで普通の人にとって。
空にとっては、全く問題でない。
なぜならば。
「胡桃と時雨は、後続のプロヒーローと一緒に来て」
「兄さんはどうするんですか?」
「あんた、まさか――」
と、それぞれ別の反応をしてくる時雨と胡桃。
空はそんな彼女達へと言うのだった。
「あのデパートは何度も行ったことがある。だから僕は、ゲートを通って先行する」




