第五百二十七話 空と地下散歩
氷菓の一件からさらにしばらく。
空の傷がすっかり回復した頃。
「ねぇ空、本当にもう大丈夫なの?」
と、言ってくるのは胡桃だ。
空はそんな彼女へと言う。
「うん、もう大丈夫だよ。こうして起き上がっても痛みもないし……そもそも、あの怪人に近寄らなければ、レベルと勇者ブーストの回復力が働くしね」
「でも……」
「本当に問題ないよ。それにそろそろ動いておかないと、別の理由で体調悪くしそうだしね」
さらに、いい加減動きたい理由はもう一つ。
それは――。
「それに今日は、胡桃と約束してたでしょ?」
「約束って、この隠れ家の中を案内するってやつ?」
と、言ってくる胡桃。
そんな彼女はそのまま空へと続けてくる。
「だったら任せなさいよね! このあたしが、完璧にこの地下を案内してみせるんだから!」
「それなら、なおさら起きないとだよね?」
「そ、そうだけど……もし空が本調子じゃないなら、あたしはいつまでも待つわ」
「何度も言うけど、本当に大丈夫だよ」
空は知っているのだ。
胡桃が空にこの地下を案内するため、いろいろ努力してくれていたことを。
彼女が時雨や他の人から、この地下について色々聞いて回っていたのを。
(僕のためにしてくれた胡桃の努力を、無駄にできるわけがない。それに体どうこう以前に、いい加減この地下について、自分の目で見て回りたいっていうのもあるしね)
と、空はそんなことを考えながら、ベッドから立ち上がるのだった。




