第五百二十三話 空とりんごの皮
空がノインから色々聞かされた数日後。
場所は変わらずベッドの上。
「…………」
と、氷で作り出したナイフを持っているのは氷菓だ。
彼女はそれでリンゴの皮を剥き剥きしている。
「…………」
なぜか無言で。
そもそも、氷菓は無言で空の部屋へやってきた後。
ドカっとリンゴ入りの籠を置き、こうして皮むきを始めたのだ。
無論。
それをするまでに会話は一切なかった。
謎だ。
(氷菓さんって、考えてることが顔に出にくいからな……なおさら、何を考えてるかわからないというか)
と、空がそんなことを考えたその時。
氷菓はリンゴの皮を剥き終えたに違いない。
「おまえ、今どんな気分かしら?」
と、氷菓はナイフを置きながら、そんなことを言ってくる。
そんな彼女は空へと、さらに言葉を続けくる。
「死にかけて、私を死ぬほど心配させたあげく、起きた直後から色々な女の子に粉をかけまくり」
「は、え?」
「時雨とは兄妹水入らずのシスコンプレイ。唯花とは甘酸っぱい片思いプレイ……どうせ、この後は梓胡桃ともニャンニャンする事でしょう」
「えっと……」
何言ってんだこの人。
と、空はそう言いたいのを全力で飲みこむ。
そんな事を言えば、どうなるかわかったものではない。
「なんにせよ、私は考えたわ。おまえへのアプローチが足りなかったのだと」
と、切り終えたリンゴが盛られた皿を持つ氷菓。
彼女はもう片方の手で、氷のフォークを作り出し言ってくる。
「おまえ、そろそろ私のものになりなさいな」




