第五十二話 空と初めてのダンジョン③
ケイブスパイダー。
その名の通り、洞窟やダンジョンなどに住み着く蜘蛛型の魔物。
大きさは成人男性ほど。
(シャーリィの話だと、口から吐き出す粘弾に注意ってことだったな。それに、動きもスケルトンやトレントに比べると複雑で早い……っと)
事前に仕入れた知識は完璧だ。
しかし、油断だけは絶対にしない。
空はそんなことを考えながら、通路の暗闇をじっと見る。
シャーリィの索敵によると、この先からケイブスパイダーは――。
と、空がそこまで考えた瞬間。
ついにその時は訪れる。
天井を走り、高速で空に近づいて来る巨大な蜘蛛。
間違いなくケイブスパイダーだ。
(確かに早い……だけど、決して目で追えない速さじゃない!)
空は牽制と攻撃をかねて、左手をケイブスパイダーへと向ける。
そして。
「魔法 《ファイア》!」
放たれる火球。
それはまっすぐケイブスパイダーに向かっていくが……。
「なっ!?」
なんと、ケイブスパイダーは壁に飛び移ってそれを躱す。
それだけではない。
(壁、床、それに天井と……次々に飛び移りながら近づいて来る)
その動きの速さとトリッキーさは、確かにスケルトンやトレントの非ではない。
しかも。
「クー! 粘弾を撃とうとしてる、注意だ! ケイブスパイダーの粘弾はなかなか取れないんだ!」
聞こえてくるシャーリィの声。
同時、ケイブスパイダーは口から複数の粘弾を撃ちだしてくる。
ダンジョンの壁や床を、縦横無尽に飛び移りながらのその攻撃。
空からしてみれば、一度に複数方向から粘弾が飛んでくる感覚に近い。
だが。
(胡桃の不可視の盾の方が厄介だし、よっぽど早かったよ)
空は飛んでくる粘弾を全て、最小限の動きで躱し切る。
けれど、ケイブスパイダーは止まらない。
ケイブスパイダーは粘弾が躱されたことなど気にしない。
そんな様子で牙をむき、空へと大きく跳躍してくる。
(所詮は魔物……そんなに飛んだら、もうトリッキーな動きはできない!)
と、空はそんなことを考えながら床を蹴る。
そして、ケイブスパイダーへ向け自らも距離を詰めると――。
「剣技《一閃》!」
すれ違い様。
空はケイブスパイダーに攻撃を繰り出すのだった。




