第五十一話 空と初めてのダンジョン②
「クー、前から二体……トレントが来るぞ」
と、前方の曲がり角を指さし、鼻をひくひく言ってくるシャーリィ。
空はそんな彼女へと言う。
「了解、シャーリィは下がっていて」
シャーリィは索敵担当。
となれば、ここからは空の番である。
空はゆっくりと剣を抜き、トレントの姿が現れるの待つ。
すると。
(来た!)
最初に見えたのは、トレントの木の根のような足。
空はその瞬間に走り出す。
(僕と違って、トレント達はまだ僕達の存在に気が付いてない!)
であるならば、先手必勝。
戦闘が起こる前に倒し切る。
と、その瞬間。
一体目のトレントが曲がり角から完全に姿を現す。そして、空の方を見たのちなんらかの行動を起こそうとするが。
(剣技《一閃》!)
トレントの行動はあまりにも遅すぎる。
空は発動した技能でトレントの胴体を両断。
そのままもう一体の前へと躍り出る。
「これで終わり……魔法 《ファイア》!」
空の声と共に、彼の左手から放たれた火球。
それはトレントへと直撃し、一瞬のうちにトレントを燃やし尽くす。
「よしっ!」
先ほど戦った、スケルトン。
そして、今戦ったトレント。
(どっちも戦うのは初めてだったけど、余裕で倒せたな。スケルトンは打撃に弱いっていうのが、拳技の技能を持ってる僕には美味かったし。まぁでも、それもこれも――)
「クー!」
と、そんな声と共にやってくるシャーリィ。
彼女は空の身体をぺたぺたと触った後、言葉を続けてくる。
「よし、怪我はないな! さすがはクーだ! シャーリィのご主人様だ!」
「わ、ちょっ……剣が抜き身だから、危ないって!」
「クぅ……やっぱり、いい匂いだ!」
と、言ってくるシャーリィ。
空はそんな彼女をやや強引に引き離す。
すると、シャーリィは再び言ってくる。
「クー! シャーリィは役にたってるか?」
「たってるよ。さっきもそれを考えていたところなんだ。スケルトンもトレントも、シャーリィが事前に索敵してくれたから楽に倒せた」
実際、先ほどのトレントがいい例だ。
仮に空一人で戦っていたならば、二体目には確実に気がつかなかった。
対処できるとは思うが、攻撃を受けていた可能性は否定できない。
それに、最初から敵の数と種類がわかるだけでも、大きなアドバンテージだ。
(さっきも二体目は《ファイア》って事前に決められたしね。動揺せず、前もって方針を決められるのはでかい……本当に、今日は僕よりシャーリィがだいかつや――)
「クー! 嫌な臭いがする! クモの臭いだ! もうすぐその突き当りから出てくる! 数は……一体だ!」
と、考えている傍からそう言ってくるシャーリィ。
空は彼女に再び「了解」と返し、剣を構えるのだった。




