第五百四話 空と怪人の親玉③
「胡桃、下がって……こいつは危ない」
「危ないって、あんたらこんな奴余裕でしょ?」
と、言ってくる胡桃。
空はそんな彼女へと言う。
「こいつが危ないって、見て分からないの!?」
「見てって……どういうことよ?」
と、本当にわからないと言った様子の胡桃。
これはやはりおかしい。
(胡桃は色んな魔物や怪人と戦ってる。相手の強さくらい、見て分かるはずだ)
だとすると。
やはり空がここまで、この怪人から脅威を感じているのは、怪人の能力の可能性が高い。
怪しいのは――。
(あの赤い瞳か……相手を怯えさせる能力ってところかな?)
いずれにしろ、ネタが分かればたいした能力ではない。
となれば、残る問題はこの怪人の素の戦闘能力だ。
胡桃が脅威を感じていないことから、そこまで戦闘能力は高くないに違いない。
しかし、だからといって油断していいことにはならない。
(敵意とかをコントロールする要領で、僕にしか強さを判別させていない可能性も、充分ありえる……なんにせよ)
この怪人の本当の強さは、戦ってみればわかることだ。
直後、空は地面を蹴って動いた。
同時、魔法 《ブラックスミス》で片手剣を作成。
そのまま瞬時に怪人の懐に入り、剣技《一閃》で斬り込んだ……はずだった。
「なっ!?」
気がついた時。
空は足がもつれ、地面へと倒れそうになっていた。
魔法を発動できてさえいない。
いったい何が起きたのか。
簡単だ。
(僕の意識に体が追いつかなかったんだ)
でもどうして?
今までこんなことは一度もなかった。
(レベルが上がった時だって、どちらかというと逆だった)
身体に意識が追いつかない感覚。
しかし、これは逆だ。
意識ばかりが先行して、体がまったく動いてない。
可能性があるとすれば、これは――。
空がそこまで考えたその時。
怪人が鎌を振るう。
そして、次の瞬間。
空が胸に感じたのは、鋭い痛み。
焼けるような灼熱。
「あ、ぐっ――」
空の口から出る大量の血。
それを認識しのと同時――空の意識は闇に落ちていくのだった。




