第五百三話 空と怪人の親玉②
(この気配……降伏を宣言しに来たとか、そんな感じはしない)
目の前の怪人から感じるのは、圧倒的な敵意と悪意だけだ。
異世界で遭遇した魔物はもちろん、日本で戦ってきた怪人をも遥かに越えている。
「ちょっと空! なに後ずさってんのよ!」
と、空は胡桃に言われて気がつく。
体が勝手に後ずさっているどころか、体中が震えているのを。
空の身体はきっと、無意識的に理解しているのだ。
(この怪人……僕より強い?)
そんなことを考えている間にも、怪人は空へと近づいて来る。
その見た目は、まるで物語に出てくる死神の様。
巨大な鎌を持ち、身体の大きさは四メートルを超えている。
そして。
そんな怪人の赤い瞳は、空をただ見つめている。
(っ……おかしい、なんだこれ? あの怪人の前に立ってから、身体の調子がおかしい)
体全体がとんでもなく重いのだ。
それだけではない。
(考えてみれば、この怪人に勝てない……そう思いだしたのも、この怪人が前に立ってからだ)
まるで、ただの人間に。
何の力もない一般人に戻ったかのような――。
(いや、ダメだ……ダメだ!)
最初からこんな気持ちでは、勝てるものも勝てない。
空は怪人を睨み返しながら、胡桃へと言うのだった。
「胡桃、下がって……こいつは危ない」




