第四百六十九話 空は魔王に反撃してみる④
「僕の前で、僕の大切な仲間を傷つけさせたりなんかしない!」
と言いながら、空はアルハザードへと手を翳す。
同時、空は翳した手へと魔力を集中させ――。
「《ファイア》!」
魔法を解き放つ。
直後、魔法は彼女へと直撃。
正真正銘の全力。
レベル6の力、そして不完全ながらも勇者としてのブーストの力。
それらを乗せた空の渾身の《ファイア》。
仮に常人が受ければ、跡形もなく消し飛んでしまうほどの威力。
実際、空とアルハザード周囲は、その威力から猛烈な爆風が巻き起こっている。
だがしかし――。
「おいおい……俺にこの程度の魔法が効くとでも?」
と、聞こえてくるアルハザードの声。
その声からして、重大なダメージを受けている雰囲気はない。
(でも、これでいい! さっきのはあくまで爆風を起こすためにした攻撃だ……砂埃が舞い上がって、視界が遮られている今――アルハザードさんは、もう一つの魔眼を使用できないに違いない!)
それだけではない。
その程度では、アルハザードは倒せない。
故に。
「シャーリィは絶対に、クーを勝たせるんだ!」
と、アルハザードを挟んで空の反対側。
そちらから聞こえてくるのは、シャーリィの声だ。
(《ファイア》を撃つ間際、シャーリィはアルハザードの背後に回り込もうと動き始めてた。きっと、攻撃をしかけようとしてくれてるに違いない)
これで挟み撃ちの形。
そして、空には次のアルハザードの行動がわかっている。
「っ……狐が、まだ俺とクウの邪魔をするか!」
と、アルハザードがシャーリィへ意識を集中させる気配。
彼女がシャーリィを先に攻撃しようとしているのは、ほぼ間違いない。
アルハザードの視界は遮られ、もう一つの魔眼は発動不可能。
彼女の意識はシャーリィへと向き、空のマークは外れている。
(舐められてるな……前の攻防で一回負けたこともあって、きっとアルハザードさんは僕の底を見た気でいるんだ。それに、今の僕は体力的に満身創痍だしね……)
少しの時間なら、放置しても問題ない。
一撃くらいなら、受けても問題ない。
だから、先に邪魔なシャーリィを殺そう。
きっと、そう考えているに違いない。
けれど、それは大きな間違いだ。
奥の手は最後まで、取っておくものなのだから。
と、空はアルハザードへと剣を構え――。
「剣技 《断空》!」
彼女の隙だらけの背中。
そこに全力の一撃を放つのだった。




