第四百五十三話 空は勇者の力を全て使ってみる
「生贄にされた人のためにも、ヒュドラに全力をぶつけたい。だからリーシャ、僕に力を貸して」
「言われるまでもありません」
と、言ってくるのはリーシャ。
彼女は空へと続けてくる。
「わたしはクウ様のものです……クウ様がなすべきことの為に、わたしの全てを使ってください」
そんなリーシャの言葉と同時。
空の中に凄まじい力が流れ込んで来る。
リーシャがブーストの力を、意図的に強めたに違いない。
(この状態で聖天魔法を使ったら、僕は確実に動きが鈍る)
それほどに聖天魔法の反動は大きいのだ。
だがしかし、ヒュドラに犠牲を出させるよりは、そちらの方がましだ。
ヒュドラは確実に魔王軍の切り札。
さらに生贄の存在が分かった以上、ヒュドラに犠牲を出させるわけにはいかない。
犠牲を出させてしまえば、生贄になった人が余計に可哀想だから。
(一撃で倒す……ヒュドラの動きが鈍い今のうちに!)
空はリーシャを抱いたまま、右手をヒュドラへと翳す。
そして、右手にかつてないほどの魔力を込める。
「っ!」
異変はすぐに訪れた。
まず、右腕全体が不自然な白い光に包まれたのだ。
その光に触れている個所の皮膚が、ボロボロと剥がれていく。
(さすがに負荷が強すぎる……か、それでも!)
今は退いてはならない時だ。
空はさらに右手に魔力を込める。
次第に強まる白い光。
次第に強まる腕の痛み。
それらが限界に達したその時――。
「聖天魔法 《アルトリウス》!」
空は自分に放てる最強の魔法の名を叫ぶのだった。




