第四百二十五話 空は改めて決意してみる②
「ねぇ、空! ちょっとこっち来なさいよ!」
と、バルコニーの方から聞こえてくるのは、胡桃の声だ。
空が部屋を出て、そちらの方へ歩いて行くと。
「ほら、みなさいよあれ! すっごく綺麗なんだから!」
と、街の夜景を指さし言ってくる胡桃。
空はそんな彼女へと言う。
「へぇ、ここからだと、お祭りの灯りがネオンみたいに見えるね」
「ネオンって……あんたさ、もう少し気の利いたこと言えないの?」
「え?」
「例えば、まるで宝石箱をひっくり返したみたいだね……とか」
「……胡桃、それ僕が言って似合うと思ってる? っていうか、それ言ったら、胡桃は絶対に笑うよね?」
「ムードってやつよ、ムード!」
などと言いつつも、苦笑している胡桃。
これは確信犯に違いない。
「…………」
まぁそれはそうと。
空は改めて夜景を見下ろして思う。
(月並みだけど、この光の一つ一つに人の生活があるんだよね。子供も大人も、必死に今を生きてる。楽しむため、幸せになるため……理由はそれぞれだろうけど)
そして、現在。
彼等は等しく、魔王軍の侵攻という危機を迎えている。
にもかかわらず、彼等が絶望していないのはいくつか理由があるに違いない。
一つは単純に最後の晩餐だからと、明日を忘れて楽しむ者。
けれど、これは少数に違いない――今日一日彼等と接したが、諦めのような物は感じなかったのだから。
もう一つはやけになっているというもの。
これも前述の理由と同じく、ありえない。
だから、きっと最後の一つが正解だ。
彼等は魔王軍に勝てると思っている。
エクセリオンの兵の力。
そして、勇者である空とその仲間の力。
それらを信じているのだ。
(負けられない……僕達はエクセリオンの人のた――)
「ちょっと、空! なんでそんな難しい顔してるのよ!」
と、空の思考を断ち切り聞こえてくるのは胡桃の声。
彼女は空へと続けて言ってくるのだった。
「せっかくこのあたしと二人で、綺麗な景色を眺めてるんだから、そんな顔しないでよね!」




