第四百十六話 空はお祭りを楽しんでみる
あれから数時間後――夜。
場所はエクセリオンの街、商店街。
「わぁ~、すごい! お店がいっぱいだ! いい匂いもたくさんする!」
と、尻尾をふりふり言っているのはシャーリィだ。
すると、リーシャがそんな彼女へと言う。
「今日は勇者様ご一行を案内するということで、軍資金を貰ってきました! なので、お金は気にせずどんどん楽しんで大丈夫です!」
「じゃあシャーリィ、どんどん楽しむ! 今日は食べ放題なんだ!」
「あ、ちょっと! みっともないし危ないから、そんなに走らないでよね!」
と、綿菓子屋さんにダッシュするシャーリィに対し、声をかけるのは胡桃だ。
彼女はため息一つ、リーシャへと言う。
「でもいいの? 多分シャーリィ、遠慮なく滅茶苦茶食べるわよ」
「大丈夫です! もしも足りなかったら、追加で軍資金を出すと王様から言っていただけましたので! ですが、そもそももらった分だけで足りると思います!」
「王からの軍資金って……あんた、いったいいくらもらったのよ?」
「そうですね」
と、うんうん考えているリーシャ。
彼女はぴこーんっと、何か思いついた様に胡桃へと言う。
「お店まるごと一つ買えるくらいです!」
「…………」
と、驚き呆然とした様子の胡桃。
けれど、空だって彼女の気持ちはよくわかる。
なんせ、お祭りに行くために貰ったお金が、店を買えるレベルなのだ。
日本でお祭りに行くために貰う軍資金とは、完全に次元が違う。
きっと、日本児童が軍資金でそんなお金を渡されれば、むしろ困ってしまうに違いない。
だがしかし。
(リーシャは聖女だし……一応、僕達は勇者ってことになってるから、妥当といえば妥当なのかな)
しかししかしだ。
お店を丸ごとを買える金を、お祭りで使うのはなかなかに難しい気がする。
「クウ様~! クウ様はどれがいいですか~!」
と、いつの間にやら綿菓子の方から聞こえてくるリーシャの声。
見れば、胡桃もそちらに行っている。
空はやや急ぎ足で、そちらへと向かうのだった。




