第三百九十三話 空とシャーリィと魔王
「我は世界を恐怖に染める存在――魔王ソフィアじゃぞ!」
と、言ってくるソフィア。
彼女の尻尾は誇らしげにぶんぶん動いている。
(こ、これは……こういうの、昔の時雨が言っていた気がする)
あれはなんといったか。
たしか――。
「シャーリィ知ってる! ちゅーにびょーだ!」
と、聞こえてくるシャーリィの声。
そう、大人になったら恥ずかしくなってくるあれだ。
故に、空はソフィアへとなるべく優し気に言う。
「ソフィアって魔王なんですね、とっても感激しました! 普段はどういう仕事をしているんですか?」
「……うぬ、我のことバカにしてるじゃろ」
「いや、してませんよ!」
「その胡散臭い敬語をまずやめるのじゃ! 聞いていてウザイのじゃ!」
「なっ!?」
胡桃と会ってから、なにかと空の敬語は否定される気がする。
と、空がそんなことを考えていると、ソフィアは再び言ってくる。
「言っておくが、我が魔王なのは本当のことじゃ……厳密には、元魔王じゃがな」
「……元?」
「そうじゃ! 十年前にあやつが……あやつが我を倒したせいで、魔王の力が失われてしまったのじゃ!」
「……あやつ?」
「そうじゃ! そうじゃ! あやつは我の力を奪い取り、今は我にとって代わって魔王として君臨しているのじゃ! しかも、あやつは我をずっと地下牢に監禁していたのじゃ!」
と、そこまで悔し気だったソフィア。
一転、彼女は嬉しそうに空へと言ってくる。
「しかーし! 我は隙をついて逃げ出し、こうして自由になったのじゃ!」
なるほど、よく練られた設定だ。
と、空がそんなことを考えたその時。
「魔物だ! 強力な魔物が攻めてきたぞ! 冒険者は至急迎撃に出てくれ!」
外から、そんな声が聞こえてくるのだった。




