第三百八十四話 時雨はうぐぅとなってみる
時はあれから数十分後。
場所は変わらず時雨の部屋。
結論から言うなら――。
「あんたの話、おもしろい……そうなんだ、空ってそういう抜けてるところもあるんだ」
と、ニコニコ笑っている唯花。
ようするに、時雨と唯花はすっかり仲良くなっていた。
だがしかし、問題点もある。
「他は? あんたと空のエピソード……他にもなにかないの?」
と、言ってくる唯花。
それを聞いて、時雨は思う。
(兄さん、ごめんなさい……唯花さんの心を開くためです、どうか犠牲になってください。今度会った時、お詫びをかねていろいろ奢りますので)
さて、どんどんハードルを上げてくる唯花。
彼女を楽しませるために、もう空のあのエピソードを話すしかない。
「実は兄さん……お化けが怖いんですよ」
「意外、空はそういうの平気そう」
と、言ってくる唯花。
時雨はそんな彼女へと言葉を続ける。
「お化け屋敷に行く機会がないので、今は知りませんが。すくなくとも、中一でお化け屋敷に入っとき……」
「は、入ったとき?」
「ビックリしすぎて兄さん、わたしに抱き着いてきました」
「それであんた、どう思ったの?」
「情けない人だなっと、そう思っただけですよ」
「……本当は?」
「う、嬉しか――っ! さっきから、わたしばっかり喋ってるじゃないですか! 唯花さんも何か喋ってくださいよ!」
すると、うーんと何か考えている様子の唯花。
彼女はすぐに時雨へと言ってくる。
「でも私……ごく最近のことか、昔のことしか思い出が――」
「構いませんよ。友達の――それも同じ妹属性の持ち主の話なら、どんな話も興味深く聞かせてもらいます」
「友達?」
「わたしと唯花さんは友達と思いましたが、違いましたか?」
「……違わない。ありがとう、時雨」
と、胡桃によく似た笑顔を浮かべる唯花。
彼女はそれからも、ニコニコと言葉を続けてくるのだった。




