第三十八話 空と奴隷宣言
「あ、あんた……なにもの、よ」
と、梓は呼吸を整えたのち、続けて言ってくる。
「あんた、自分が何をしたのか……わかってるの?」
「言われなくてもわかってますよ。勝ちを梓さんに譲らなかったことですよね? それは本当に悪いと――」
「違う! あたしはそんな茶番は最初から望んでないんだから!」
と、梓は空いている手で強く床を打ち付ける。
その時、異能を使っていたのか床に大きなヒビが入ったのはご愛敬だ。
とにもかくにも、そんな彼女はゆっくり立ち上がり、さらに続けてくる。
「最後の一撃……あんたあれ、どういう状況だったか理解してるの?」
「最後? 梓さんが《イージス》を身に纏っていたやつのことですか?」
「……あたしの《イージス》にはとある特性があるのよ」
梓が語った特性、それは以下に二つである。
一つ――梓から近ければ近いほど、消耗が小さく強度が増す。
二つ――盾の面性が小さいほど、消耗が小さく強度が増す。
梓は「それで」と、空をまっすぐ見つめてきながら言ってくる。
「あたしはあの時、《イージス》を身に纏ってなんかいなかった」
「え?」
「盾を破壊されて警戒したあたしは、あんたの攻撃を読んで一点に張ったの。最小面積の盾を、あたしの腹部の一点だけに」
「…………」
「そこまであたしに密接させて、そこまでの面積にした《イージス》はね。研究者からこう言われたの――『破壊不可能だし、あらゆる衝撃も通さない』って」
「…………」
「だから、あの時の《イージス》を突破するとしたら、それは異能による特殊能力以外ありえないわ。例えば『衝撃を絶対に伝える』という、物理概念を無視した異能とかね」
と、梓はギロリと罪人を睨み付けるかのような視線で言ってくるのだった。
「あんた、《道具箱》の他にも異能を一つ……いえ、二つくらい隠し持ってるでしょ」




