第三百六十九話 空は交渉してみる②
「待たせたね……おや、エンジェル――時雨くんも一緒か」
と、部屋へ入ってくる初老の男性。
彼は空達の正面へ腰掛けると、空へと続けて言ってくる。
「さっそくだが、ここは率直に言わせてもらおう――キミは素晴らしい」
「えと、ありがとうございます」
「時雨くんの前で言うのもなんだが、個人的なキミの評価は、もはやエンジェル以上だ」
「まぁ、当たり前ですね。判断力を除けば、兄さんは完全にわたしより強いですから」
と、うむうむ頷いている時雨。
初老の男性はそれを見て満足そうな笑みを浮かべた後、再び空へと言ってくる。
「将来的に、キミは間違いなく一位の座につくことになる……だが、今はその話は置いておくとして、ここに呼び出した理由はわかるね?」
「はい。僕達のチームが表彰されることになったから、その代表で一名ですよね?」
「その通り。あとは、昨晩急遽決まったことが一つ――日向空の功績をたたえて、キミに褒美を取らせるということになってね」
「それは――」
空は思わず遠慮しようとする。
空だけ追加で褒美をもらうのは、メンバーにも悪いし、協会にも悪いきがしたからだ。
しかし。
(待てよ。これって、僕の目的といい感じにマッチしてるんじゃないかな。言い方は悪いけど、これを利用するしかない気がする)
今日、空はたしかに呼び出されて協会に来た。
けれど、本当の目的は別にある。
それは――。
「その褒美の件なんですけど、ノインのことも含めて、僕から提案があるんですけど……聞いてもらえますか?」




