第三百六十八話 空は交渉してみる
時はノインのお見舞いから数日後。
場所はヒーロー協会のとある一室。
現在、空はまたも協会に呼び出しをくらっていた。
しかし、以前と違って、今回は呼ばれた理由が明白なため、気が楽だ。
というのも。
「兄さん! 表彰ですよ、表彰! これはすごいことですよ、わかっていますか?」
と、言ってくるのは時雨である。
彼女は空の隣に座りながら、空へと言葉を続けてくる。
「でもさすがは兄さんです、わたしは以前から兄さんの可能性をよく理解していました……とても嬉しいです」
「褒めてくれるのは嬉しいんだけどさ、わざわざついて来なくてもよかったのに」
「兄さん……なんですか? また、わたしが居ると都合悪いことでもする気ですか?」
「うっ……」
時雨は妙なところで勘がいいから困る。
しかし、空がしようとしていることは、正直たいして悪いことではない。
(非合法ヒーロー活動と比べたら、大半のことはたいしたことじゃないよね)
けれど、現状そんなことをそのまま口に出すわけにはいかない。
故に、空は時雨へと言う。
「いや、ほら……時雨って忙しいから、僕について来なくてもよかったのにって意味だよ! 今回呼ばれたのは、チームの代表者一名――そういう意味で僕なんだから」
「わたしは兄さんの保護者です。こういう重要な場所には、同伴する気味があります」
「…………」
どうやら、時雨は空のお母さんになったようだ。
と、空がそんなことを考えたその時。
「待たせたね……おや、エンジェル――時雨くんも一緒か」
やってきたのは初老の男性である。




