第三百六十五話 空はノインに話してみた③
「決めた……異世界、行ってみたい。私をあんたの奴隷にして……お願い」
と、言ってくるノイン。
空はそんな彼女へと言う。
「えっと、僕の話を聞いてた? というか、奴隷の意味わかってる?」
「わかってる……私の全てをあんたに捧げるってこと……あんたのお人形になるってこと」
「やめて! 変な言い回しするのは、本当にやめて!」
「でも、姉さんとそういうことしているでしょ?」
「してないよ! っていうか、そういうってなに!?」
「……ヘタレ、か」
と、ため息をつくノイン。
正直、まったく意味が分からない。
(外見は胡桃に似ているけど、中身は結構違うな。まぁ、当然のことだけど)
なにはともあれ、ノインは冗談か本気か、異世界に興味があるようだ。
しかし、なんとかして彼女の異世界行きは、諦めさせる必要がある。
理由はいくつかあるが、特に大きいのは。
(胡桃の妹を奴隷にしたとかってなったら、確実に大変なことになるよね)
胡桃のシスコン度合いは、見ても聞いてもそうとう重症だ。
そんな中――。
『姉さん……私、空の奴隷になった』
とか、ノインが言いだそうものなら……。
空は冗談抜きで、胡桃に殺される可能性がある。
猛烈なガクガクによって、空の頭が吹っ飛んでいく。
そんな光景は容易に想像できる。
「…………」
想像したら、鳥肌がたってきた。
やはり早急に諦めさせる必要がある。
と、空が考えたその時。
「ねぇ、ヘタレ……」
と、言ってくるノイン。
空はそんな彼女へと言う。
「その呼び方やめて!?」
「ねぇ、空……さっきの話だけど、私は興味本位だけで異世界に行きたいわけじゃない」
「それって、どういう――」
「私は私の身体を治したい……このままだと姉さんが心配する」
「っ」
「ちゃんとした人間に戻って、姉さんとの日常を取り戻したい」
当たり前の願いだ。
しかし、だからこそ空はそれを叶えてあげたいと思う。
(たしかに異世界なら……リーシャなら、ノインの身体をなんとかできるかもしれない)
医学でどうにもならないのなら、魔法でアプローチする。
ノインはしっかりと、考えて『異世界に行きたい』と言っていたのだ。
(それを興味本位や冗談と決めつけて、異世界行きを諦めさせようとしていたなんて)
完全にバカだ。
ノインの想いを見誤っていた。
けれどそれを知れた今。
空が彼女に言うべきことは一つだ。。




