第三百六十話 空と胡桃はお見舞い中②
「大丈夫、あたしは気にしてないから。だから、これからやり直そ?」
と、ノインへ言った後、再び着席する胡桃。
そこから彼女は猛烈な姉妹トークを始める。
まるで、離れていた時を埋めるかのように。
「…………」
ひとつ、思ったことがある。
それはきっと誰もが思うに違いないことだ。
(僕……いなくてもよくない?)
というか、この状況。
むしろ、いないほうが姉妹の時間を存分に過ごせるのではないだろうか。
(実際僕、さっきから一言も喋ってないんだよね)
けれど、別に嫌な気分はしない。
二人の会話は見ていて、とても安らぐというか……とてもグッとくると言うか。
(胡桃、本当によかっ――)
「ちょっと、あんた……私の話を聞いてる?」
と、聞こえてくるノインの声に、空は現実に戻される。
空が彼女の方へ意識と視線を向けると。
「聞いてなかった……って顔」
ジトーっとした視線を送ってくるノイン。
改めて思うが、胡桃にそっくりである。
髪型以外、まんま胡桃だ。
(これ、髪型変えられたらわからないんじゃないかな……)
と、空がノインを見つめていたのが悪かったに違いない。
突如ガクガク揺れる空の視界。
「あんた! 唯花のこと無言で見つめるのやめなさいよね! この変態! あたしというものが居るのに、どういうつもりよ!」
言ってくるのは胡桃である。
彼女は空の頭ガクガクを続けながら、言葉を続けてくる。
「ずっと怪しいと思ってたけど、あんたやっぱり妹フェチなんでしょ!」
「い、妹フェチ!?」
「そうよ! 同じ顔つきなら、妹の方が好きになるあれなんでしょ!」
「ち、ちが――」
「! まさかあんた、時雨も!?」
なんだか、酷い誤解が始まった。
とりあえず、今は胡桃の暴走を止めなければならない。
と、空が考えたその時。
「姉さん……出ていって」
静かに、けれどたしかに響き渡るノインの声。
彼女は胡桃をジトーっと睨みながら、言葉を続けるのだった。
「私は彼と静かに話したい……だから、出て行って」




