第三百五十七話 空は胡桃と一緒にお見舞いに行ってみる②
時はあれから十数分後。
場所は病院――ノインの病室前。
「胡桃、入らないの?」
「う、うるさい! 少し黙ってなさいよね!」
と、扉の前で完全フリーズしている胡桃。
彼女は先ほどから「す~は~」と呼吸を繰り返したり、ぶつぶつ何かを呟いてばかりだ。
空はそんな胡桃へと言う。
「えっと……ひょっとして胡桃、緊張してる?」
「な、なによ! 緊張したら悪いの!?」
「いや、悪くはないんだけどさ……この部屋に居るのって、胡桃の妹さんなんだから、別に普通に入って行けばいいんじゃないかな?」
「あんたバカじゃないの!?」
ガシっと掴まれる襟首。
胡桃はガクガク空を揺さぶりながら、言葉を続けてくる。
「その第一声をどうするかを悩んでるの! 唯花はとっても繊細なんだから、あんたと一緒にしないでよね!」
「わ、わかったから……ちょ、もう揺さぶるのやめてってば!」
けれど、言われてみれば確かにそうだ。
怪人島での出来事をノーカンとするならば、胡桃と唯花は今日久しぶりに出会うに違いない。
(僕と時雨が同じような状況になったら、確かになんて言うか迷うかもだよね)
久しぶり……っていうのも、どこかよそよそしい気がする。
となると、やはり無難なのは――。
「『おかえり』がいいんじゃないかな?」
「え?」
と、ガクガクをやめる胡桃。
空はきょとんとしている彼女へ、言葉を続ける。
「やっぱりさ、家族が帰ってきたんだから。そういう時に言うのって、『おかえり』って言葉じゃないかな? ごめんね……僕にはこれくらいしか」
「そんなこと、ない……そうよね、唯花は帰ってきたんだから。あたしがあの子に言ってあげることは――」
ガラガラ。
と、胡桃の言葉を断ち切る様に響く扉が開く音。
それと同時。
「朝っぱらから……私の部屋の前で、恥ずかしいこと言うの……やめて」
頬を染めたノインが、開いた扉の向こうから、そんなことを言ってくるのだった。




