第三百五十一話 空はノインを倒してみる
(ノインを一瞬で倒すしかない)
と言っても、繰り返すが相手はレベル5相当。
一撃で倒そうとして、倒せるものではない。
体力もあるだろうし、相手は正体不明の鎧も身に纏っているのだから。
「《断空》」
それしかない。
ノインの心がどのような状態にあるのかは、正直わからない。
けれど、先の黒騎士――老人と同じ状態だとするならば。
(初撃で『洗脳』を断ちきり、二撃目で『過去の記憶の封印』を断ち切る……だけど、できるのか?)
いや、その疑問は論外だ。
空はすぐに頭振って、確固たる意思を口にする。
「僕はヒーローだ。ヒーローは常に自信を持って、相手を助ける者だ」
「独り言……うるさい、これだから人間は嫌い」
と、こちらに手を向けてくるノイン。
であるならば。
(この攻防でケリをつける!)
空は魔法 《ブラックスミス》で片手剣を作り出す。
そして、すぐさま魔眼 《王の左目》を使用。
それと時を同じくして、空に向けて飛んでくる無数の殺気。
間違いない――ノインが異能を行使したのだ。
不可視の槍、全てを貫くそれは当たれば即死に違いない。
だが、空はその槍が飛んでくる方へと駆けだす。
特に考えなどない。これが最短距離だからだ。
(やっぱり魔眼を使っていても、たいしてゆっくりに感じない……それでも!)
空は直感と反射により、不可視の槍を次々と躱していく。
時には槍に素手でワザと触れることにより、最小限の動きでその軌道を変え。
時には片手剣が壊れるのも厭わず、全力で叩きこむことにより、それを迎撃する。
「っ! それ以上こっちに来ないで……私に、近寄るな!」
聞こえてくるノインの声。
彼女は大振りで、手を横に薙ぐ動作を見せる。
しかし。
(フェイクだ、本命は――)
空は地面を全力で蹴り、上空へと飛び上がる。
直後聞こえたのは、地面から大量の槍が生える音。
「あんたはバカ……空中じゃ身動きが取れない!」
言って、ノインは空へと手を翳してくる。
たしかに――。
「普通の人ならそうでしょうね!」
空はすぐさま異能 《道具箱》を使用。
ゲートを自分の目の前と、地面へ作り出す。
空はそれを通じて地面へと降り立つ。
同時頭上を通過する死の気配――ノインの槍だ。
「っ!?」
ノインは何が起きたのかわかっていないに違いない。
わずかに硬直し、集中力が削がれているのが見てわかる。
間合いは充分。
決めるならここだ。
「ノイン!」
「!」
と、反応するノイン。
空は左右の手にそれぞれ片手剣を作り出し、彼女へと言う。
「僕が君を助ける! 絶対に!」
発動する技能はただ一つ。
「剣技 《断空》!」
地面を蹴ると同時、両手の片手剣から同時に放ったその技。
それはすれ違い様に、空の狙い通りノインを――彼女の内を斬るのだった。




