第三百四十七話 空と胡桃とノイン②
「僕は胡桃と残って、黒騎士――ノインを何とかする」
空がそう言うと、時雨はすぐさまなにか言いたそうな顔をする。
しかし、苦々しい顔で氷菓と協力して、ヒーロー達を運んで行ってくれた。
そして現在。
「救助するのは邪魔しないなんて、優しいですね」
「私の任務は……ここの防衛、ヒーローの殺害じゃない」
と、ようやく口を開くノイン。
空はその瞬間、とあることを思う。
(なるほど、胡桃と全く同じ声。それによく考えてみれば、不可視の異能も胡桃と似ているか)
胡桃の妹――唯花がどうしてこうなっているのか。
それは空にはわからない。
けれど。
もしも、本当にノインが唯花だとするならば、事態はかなり深刻だ。
なんせ老人の話によると、ノインの怪人化の深度はかなり深いのだから。
「ねぇ、唯花なんでしょ!? あたしがわかる? 胡桃……あんたのお姉ちゃん!」
「胡桃……」
と、胡桃に対して言うのはノインである。
ノインはしばらく考えた様子を浮かべた後、胡桃へと言う。
「知らない……私にあんたみたいな、人間の知り合いはいない」
「人間の知り合いって……あんただって人間でしょ!」
「私が人間? 違う……私は怪人」
「そ、そんな――」
「話はもういい? 私は人間が嫌い……これ以上、あんた達と話したくない」
と、再びこちらに手を向けてくるノイン。
胡桃との会話で、老人の様に我を取り戻すかとも思ったが、そう甘くはないようだ。
であるならば。
「胡桃、下がっていて」
「く、空? でも、その……」
と、とても弱々しい様子の胡桃。
空は頷いた後、そんな彼女へ続けて言うのだった。
「胡桃が言いたいことはわかってる――僕が絶対にあの子を助けるから安心して。それと、もし本当にあの子が胡桃の妹なら、戦わせるわけにはいかない」
姉妹で戦うほど、バカバカしくて残酷なことはない。
故に空はもう一度、胡桃へと言うのだった。
「胡桃は僕を信じてくれる?」




