第三百四十一話 空と老人
時は老人が目覚めてから数分。
場所は変わらず怪人島。
「兄さん……とりあえず、海上で待機しているヒーロー達に救援を求めました。しばらくすれば、ここまでこの人を保護しにやってきてくれます」
と、言ってくる時雨。
空はそんな彼女へと言う。
「うん、ありがとう。じゃあそれまでは、あの人の護衛をしよう」
「…………」
「どうしたの?」
「いえ、先ほどの話が気になりまして……梓さんの様子も少しおかしいですし」
「あぁ……」
と、空は残るみんなの方を見る。
そこに居るのは、木に寄りかかった老人。そして、彼を介護する氷菓と胡桃の姿である。
けれど、時雨の言う通り胡桃の元気がない。
(まぁ、あんな話を聞かされたら当たり前か)
老人は意識を取り戻した後、空達へこんな事を伝えて来たのだ。
二週間前、怪人に誘拐されこの島に連れて来られた。
そこから記憶が途切れており、気がつけばこうなっていた。
最後に覚えているのは、手術台の様なものに拘束された光景だと。
「人間が誘拐されて、怪人になった……ってことかな?」
「わかりませんが、それしか考えられません」
と、空の考えを推してくる時雨。
もしそうだとしたら、かなりまずい事態が発生している。
(あの老人は凄まじい強さだった。人間ベースの怪人だと強くなるってことだよね、これ? もしも、このタイプの怪人が今後大量に出現したら大混乱が起きる)
なんせ、この人間怪人はヒーローよりも圧倒的に強い。
それになにより。
人間なのだから。
(あの老人は怪人になって浅かったから、ちょっとしたきっかけで自分を取り戻せたみたいだけど……今後全てがそううまく行くとは思えない)
その時にいったいどうすればいいのか。
なんせ、あの老人は決定的なことを言っていたのだから。
『この島にもう一人、居る……ノインという子だ。本当の名前かは……わからない。私より前から……自分が怪人と思って、行動している……彼女はまだ子供だ……助けてあげて、くれ』




