三百三十七話 空と黒騎士
「その反応……なるほど、おぬしが索敵能力持ちか」
と、聞こえてくる声。
空がそちらを見ると、そこに居たのは黒い騎士甲冑を全身にまとった騎士だった。
纏っている甲冑は時雨の物に似ている。
けれど、この騎士の物は所々に赤い血管の様なものが浮き出し、禍々しさが際立つ。
さらに、時折甲冑自体が脈打っていることから、まるでそれ自体が生物のようだ。
「兄さん……どう見ても一体に見えますけど」
と、言ってくるのは時雨である。
当然の言葉である。けれど、もし空の索敵が正しいのならば。
「くく、そう責めてやるでない……そやつの能力は正しいのだからな」
と、怪人が言った瞬間。
なんと、怪人が増えたのである。
「増殖……いや、実体を持った分身を作り出す能力ですか。そのせいで、反応が増えたり減ったりしていた――なるほど、兄さんが戸惑うわけです」
全て時雨の言う通りである。
だから、空はハッキリとした事が言えなかったのだ。
もっとも、今の空には別の心配がある。
それはこうして、怪人を目視してわかったことなのだが。
「胡桃。自分と時雨と氷菓さんの周りに《イージス》を張って、絶対に解かないで」
「え? 分身するとはいえ、相手はこいつだけなんだから――」
と、途切れる胡桃の言葉。
そんな彼女の目の前へ瞬時に移動し、振り下ろされる黒騎士の剣。
空はそんな凶刃を《ブラックスミス》で生み出した片手剣で受け止めつつ、胡桃へと言うのだった。
「こいつはかなり強い。今まで戦ってきた怪人の比じゃない!」




