第三百二十二話 空と断空
リーシャの話をまとめるとこんな感じだった。
たしかに先ほど空が試していた『炎を斬る』などは、できないことだ。
しかし、空も考えていた通り炎に剣で干渉することは、不可能ではない。
炎に剣を全力で振れば、炎は揺らぐのだから。
要するに、リーシャが言いたかったこととは。
そもそも物理的に干渉が不可能なものへの攻撃。
剣で干渉が確実に不可能なものにしか、《断空》は発動しない。
リーシャの言葉をそのまま使うなら――人の悪心といったようなものだ。
可能性はあるように思う。
というより、試さない理由はない。
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時は《断空》の効果予想から数分後。
場所は変わらず平原。
「こっちだ! そんなんじゃシャーリィは捕まらないんだ!」
と、言っているのはシャーリィである。
彼女は現在、彼女を追うゴブリンを挑発しながら、逃げ回っている。
シャーリィはそのまま空へと続けて言ってくる。
「クー! ゴブリンがこん棒振り回し始めた! きっとすごい怒ってる!」
「了解、じゃあそろそろ試してみるから、こっちまで誘導してもらえる?」
「それくらい簡単だ! シャーリィにお任せだ!」
シャーリィは何をしているのか。
空は何をしようとしているのか。
それは簡単である。
空はこれから、シャーリィが溜めた『ゴブリンのヘイト』だけを斬ろうとしているのだ。
仮に《断空》が物理干渉不可能なものだけを斬るならば、出来るに違いない。
斬れない物を斬る技能。
その真価ははたして――。
「クー! 今だ!」
と、聞こえてくるシャーリィの声。
同時、空は全速力で駆けだす。
そして、ゴブリンとすれ違い様に繰り出したのは当然。
「剣技 《断空》!」




