第三百四話 空はムカデを退治してみた②
「ヒーローは守るべき人々に安心を与えるのが仕事です……つまり、兄さんにはまだ仕事が残っています」
と、時雨はとある方向を指さす。
空がそちらを見ると、そこに居たのは――。
大勢の人だ。
決して褒められたことではない。
けれどそこには、状況を確認しに戻ってきた一般人が大勢いた。
きっと、彼らは一部始終を遠くから見ていたに違いない。
なんせ。
「あれ……あの男の子が倒したんだよな?」
「あぁ、高すぎてよく見えなかったけど、空から降りて来たのあいつだけだし」
「あんな大きな怪人を一人で倒すって、そんなヒーロー見たことなくない?」
「え、あの子ってヒーローなの?」
「なんてヒーロー?」
「ヒーローネームは?」
ざわざわ。
ざわざわざわ。
広がっていく人々の声。
「兄さん……こういう時、ヒーローならどうするかご存知ですか?」
と、言ってくるのは時雨である。
空はそんな彼女へと一度だけ頷く。
空はずっとヒーローに憧れて来たのだ。
アニメ、映画、ドラマ、コミック、小説、ラノベ……そしてなにより。
『安心してほしい! これからもみんなのことは、僕が――この蒼天ヒーローが絶対に守る! 悪は、怪人は絶対に許さない! このスカイの名にかけて!』
ビシッと少しダサいポーズを決める空の父。
空はそんなヒーロー『スカイ』に憧れたのだ。
やることなどわかるに決まっている。
空は最後の力を振り絞り立ち上がる。
そして。
「もう大丈夫です……安全は確保しました。あとは安心して避難誘導にしたがってください!」
直後、人々から上がる大歓声。
こうして、空は人々から一応は認知されたわけなのだが。
「はぁ……五十点ですよ、兄さん。事務報告みたいなことを、助けた一般の方々に言ってどうするんですか」
時雨からは、最後の最後で駄目だしされるのだった。




