第二百八十一話 空と氷菓と異世界と③
時はあれから数十分後。
場所は変わらず、噴水広場。
「と、言った感じです……大分はしょりましたけど、異世界でのことは話しました。満足したなら、誰にも言わないでくださいよ」
「えぇ、もちろんよぉ。私の大事な大事な空のことだもの……誰かに言うはずがないわぁ。この秘密は私のもの……邪魔者が居るせいで、私だけのものに出来ないのが残念だけれど」
と、ニコニコと……いや、ニタニタと本当に満足したのか謎な様子の氷菓。
彼女はここで思いもしなかったことを、空へと言ってくる。
それは。
「私も異世界に行きたいわぁ」
「は?」
「おまえの奴隷になったらいけるのよねぇ? だったら簡単に行けるわぁ……私なら確実に、問題なくね」
「話聞いてましたか? ただ奴隷になるだけじゃ――」
「うるさい。おまえは黙って《道具箱》を使えばいいの……早くしなさい」
「…………」
きっとこういう女性と結婚すると、尻に敷かれることになるのだ。
空は注意しようと思いながら、《道具箱》によるゲートを開く。
「これが最弱の異能 《道具箱》ねぇ……おまえの話が本当なら、最強の異能という肩書に変わりそうねぇ」
などと、ニコニコしている氷菓。
空はそんな彼女へと言う。
「最強の異能で思い出しましたけど、氷菓さんってどうして序列五位なんですか?」
「……どういうことかしらぁ?」
「いえ、猫をさがしている時に見ていて思ったんですよ。あの範囲であそこまで精密な異能のコントロールを出来る人が、序列五位に収まっているわけがないって」
「…………」
「入学試験も何もかも、氷菓さんって本気だしてませんよね?」
「さて、どうかしらぁ……目立つのが面倒だったから、軽く異能を使っただけなのに、序列五位になってしまったのは覚えているのだけれど」
などと、たいしたことでもないように言ってくる氷菓。
彼女は空へと更に続けてくる。
「でもそうね。異世界のことを教えてくれたのだし……一度くらいなら、おまえになら見せてあげるわぁ」
と、氷菓は片手を夜空へと翳す。
最初に現れたのは小さな岩程度の氷の塊。
だが次の瞬間。
「なっ!?」
夜空に現れたのは鏡写しになったヒーロー養成学校。
しかし、その全容は透き通るような氷でできていたのだった。




