第二百七十九話 空と氷菓と異世界と
時は無事に猫を見つけ出し、飼い主のもとへともどした夜。
現在、空はヒーロー養成学校にある植物園――その噴水広場へとやってきていた。
ここに来た理由は簡単である。
「さぁ、ここなら誰もいないわぁ。ちゃんと話してくれるのでしょうね?」
と、噴水前のベンチに腰掛け言ってくるのは氷菓である。
こうなった経緯を簡潔に説明すると、要するに――。
『女の子の後頭部をガツンした罪と、わたしに恥をかかせた罪……これはその罰よ。さぁ、時雨と梓胡桃の間で共有している『異世界』とやらの情報を言いなさい』
空は氷菓のそんな言葉から続く追及を、躱し切ることが出来なかったのだ。
無論、任務が終わってから胡桃や時雨にも相談した。
結果。
『ふーん……ところで、くーう♪ 今度の週末一緒に出掛けなさいよね!』
『はぁ……兄さんはどうして、厄介なモンスターばかりに秘密を握られてしまうのか。知りませんよ……わたしはもう』
以上、胡桃と時雨の言葉である。
胡桃に至っては、もはや完全に興味なさそうなのが、いっそ笑えてきた。
「おまえ、なにをさっきから黙っているのよ?」
と、空の思考を断ち切るように聞こえてくるのは、氷菓の声である。
彼女は「まさか……」と、何かに気が付いた様に空へと言ってくる。
「人気のないところに連れてきたのは、私を殺そうとでもしているのかしら?」
「いやいやいや、発想が怖いですよ。僕がそんなことをする奴に見えますか?」
「そうねぇ……おまえはどう見えるかしらぁ」
と、立ち上がり空に近づいて来る氷菓。
なんでもいいが、距離が近い。
今にも空の鼻と氷菓の鼻が当たりそうである。
と、空が氷菓の可愛らしい鼻を回避しようとしていると。
「わかったわ、おまえ……私をこの場で犯そうとしているわね?」
氷菓はアホみたいなことを言いだした。




